背番号「8」 
服部 剛

落合選手は、凄い。 
原選手の引退試合でしっかりと  
糸を引くようなセンター前ヒットを、打った。 
(そのバットは刀の光で、瞬いた) 

王選手は、凄い。 
刀で宙吊りの紙を 
切り裂いた 

(ボールは停まって、観えるもの) 
(ホームランの軌道はスローに、描くもの) 

原選手は、素晴らしい。 

今迄主役の4番打者だったのに 
最後の年は控えのベンチを暖めながら 
屈辱に、口を結んで 
(今が大事な勉強・・・)と呟いた 

引退試合のサードの守備で 
ダイビングして、宙に浮き 

威風堂々と打席に立ち 
スタンドへホームランの虹を架けた 

落合選手と王選手の違い 
前者はボールの真芯を、斬った 
後者はボールの数ミリ下を、叩いた 

あの日、引退試合の挨拶で 
ピッチャーのマウンドに立った原選手は 
赤く潤んだ瞳で「夢の種を植えます」と 
観客席とテレビの前のファンに、約束した。 

打席の土に根を張った 
落合選手と王選手も偉大だが 

僕は決して、忘れない 

控えのベンチから代打として 
唇を噛み締めながら、バットという刀を握り 
打席に向かって歩いた、震える背中を  

サードの守備で白球に飛び込み 
体が宙に浮いた、瞬間を 

ホームランの打球の虹がスタンドへ吸い込まれ 
幸せそうにホームベースへと走り 

観客席の僕を立ち上がらせた 
背番号「8」に見た、あの日の夢を。 








自由詩 背番号「8」  Copyright 服部 剛 2011-04-10 23:08:06縦
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