首の無い人 
服部 剛

原爆が、長崎の教会の前に立つ 
マリア像の首を、吹き飛ばした。 

ミサイルで、バーミヤンの崖に身を隠す 
大仏の顔が、砕け散った。  

暴力の手に 
顔の消えた後も 
マリア像と大仏は遠く離れた空の下 
それぞれに長い間、立っている 

いつか栄えた文明の 
誰一人いない廃墟の街の風景が 
夕陽の色に染まる頃 

一枚の絵画の奥から 
遠い昔の賑わいは異国の風に甦り 
旅人の耳に夢を囁く 


 マリア像 
 大仏 
 たった一人の人間 
 暗闇にぽつんと浮く青い惑星ほし 


恐ろしい炎の手に滅び去っても 
消えぬもの・・・ 

人間がいつか肉体からだを脱いでも 
残るもの・・・

夜になると 
旅人の前にふっと、現れる 
まぼろしの像 

沈黙を語る、首の無い人 








自由詩 首の無い人  Copyright 服部 剛 2011-04-06 00:59:03
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