「がんばるな、ひとよ」(3331 Arts Ciyodaにて2011.4.3に
白糸雅樹

「がんばるな、ひとよ」
   (3331 Arts Ciyodaにて2011.4.3に行われたパフォーマンス・アクトにて私が行ったこと。)



 はい、行ってきました。参加してきました。どういう集まりかも知らず、ただ、時間と場所だけを聞いて。

 東北地方太平洋沖地震復興支援アートアクション「いま、わたしになにができるのか?─3331から考える」の参加作品として、2011.4.3の15:30-15:50:「万城目純+ホワイトダイス」に飛び入りで。

http://www.3331.jp/schedule/000896.html

 3331というのは、場所の名前です。建物と、それを運営している団体の名前のようです。
http://www.3331.jp/

 はい、書かないつもりでした。パフォーマンスの全容を覚えているわけではない(それどころか自分のしたことさえ全部は覚えていない)し、私は飛び入りの一参加者だし、なのに自慢めくし。

 でも。でも。

 今日、友人の詩人のmixi日記で、「がんばろう東北!」ってポスターが東北在住の彼女の目にするスーパーに貼ってあって、「迷惑。見るのが苦痛」って主旨のことを書いているのを読んで。

 「がんばろう」という人ばかりではないよ、「がんばるな」と昨日、ちゃんと首都圏の、それも東京の上野神田界隈で呼びかけてきたよ、とそれだけを伝えたくて、はい、します。自慢します。手前味噌します。

 パフォーマンスは二十分。会場には、他の出品者やワークショップを行っている人々の作品、人、が散在していました。会場の中央近くはやはりチャリティー出品者であるカフェのテーブルが並んでいました。テーブルの周りには、物販ブースの机が、販売者が中心に背を向け、買い手が中心を見られる形に配置されていました。壁際にもワークショップを行っているスペースなどがありました。

 その会場で、午後3時半。ふと気がつくと、中央近くのテーブルの間にいつのまに現れたか、ダンサーの万城目純さんと相良ゆみさんが、静かに動いていました。

 手渡される、開かれた、白い透明なビニール傘。

 そして始まる、男の人の能の朗詠(謡)。私はカリンバを弾き、どこかから重なってくるトライアングルの音。その謡にかぶせるように、私は、アア、アア、と高めの音程で発声を始めました。

 そして。言葉でない声は、言葉になり、呼びかけるように、祈るように、「がんばるな。ひとよ。がんばるな。うみよ。」と繰り返し始めました。

 演者はみな、白い服(デザインはばらばら。ただ、白い、ということだけが共通項。)を身につけ、何人もの人が、舞踏、舞踊、などをしていました。

 そして、野田秀樹の、演劇の上演再開のアナウンス

「劇場の安全確認の点検を含めて、4日間、劇場の灯を消しました。私は、その間、本当に居心地悪く暮らしました。日頃『ろうそく1本があれば、どんな時でもやれる。それが演劇だ』と言っていたからです。現実にはそのろうそく1本も危険だと思いこみ、自分の首をしめるような自主規制下におかれている気がします」と語り出した。

 「音楽や美術や演劇が不自由になった時代がどれだけ人間にとって不幸な時代であったか、それは誰もが知っていることです。劇場で守るココロというのは、人間の営みに欠かせないものです。日常の営みを消してはならないように、劇場の灯も消してはいけない。だから一日でも早く、再開したかった」

 と、抜粋がこちらhttp://www.asahi.com/showbiz/stage/theater/TKY201103210146.htmlに引用されている


の全文の朗読を始めた女性がいました。

 その間も、私は、発声、カリンバ、言葉、を続け、身体を動かし、床に身体を投げ出し、うつ伏せに倒れた私の背後には、「がんばろう、日本」のたすきをかけた人形様の人体が立ち尽くしていました(この人体を演じていたのは、ホワイト・ダイスとは別の芸人さんですが。)。そして、どん、どん、と響く音。床を、怒りのように踏み鳴らす音が私の背後で聞こえ(足音を立てていたのは、ホワイト・ダイスの参加者の女性演者)、私は振り返ることができず、ただ、カリンバをつまびき、がんばるな、と祈り続けました。

 野田秀樹のアナウンスの朗読は続き、謡も続き、けらけらけら、と笑い出す女性演者がいました。

 ときおり穏やかに響く、オカリナの音。

 ふ、と何をきっかけにしたのか、私は物販ブースとカフェのテーブルの間を走りぬけ、会場の、最初演じ始めた場所から200度くらい回転した位置にいました。その時です。「おかあさーん、楽しいことしたいよぉ」と発語した女性演者。彼女の言葉を受け、私は、「おかあさーん、楽しいことしたいよぉ。」と繰り返し、「おかあさーん、楽しいことしたいよー。アニメを見ようよー。おかーさーん。わらってよぉ。おかあさーん、おかあさーん。」と声を高め、次第に言葉はただ、「おかーさーん、おかーさーん」という叫びになり、「おかーさーん、おかーさーん、どこにいるのぉー、おかあさーん、ままー、ままー、ままー」と繰り返しました。

 そのあいだ演者たちの半数ほどは踊り続け、観客のうちのこどもがふたりほど、おかあさんを呼び続ける私をまじまじと見つめていました。

 そしてまた繰り返す、「がんばるな、ひとよ。がんばるな。日本。」という祈り。

 またしても床に倒れこんだまま、カリンバを弾き続ける私から、静かにカリンバを取り、爪弾き始める女性演者。私は倒れたままでした。

 その頃、時刻は3時50分となり、しずかに演目は終了しました。

 最後に、万城目さんが、「みなさま、おさわがわせしました。よろしければこの箱に義捐金をお願いします」と挨拶し、会場をまわりました。


                          2011.4.4 白糸雅樹


散文(批評随筆小説等) 「がんばるな、ひとよ」(3331 Arts Ciyodaにて2011.4.3に Copyright 白糸雅樹 2011-04-05 00:02:10
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