小さな君への挨拶
岡部淳太郎

小さなものたちが
それぞれに
自らの場所で躓いている
その中に僕も君もいて
むすうの僕と君が
それぞれに
自らの小さく見える
けれどもほんとうはもっと大きい場所で
同じように躓いている

最初に揺れた時は
まだ明るかった
けれどそれからどんどん
時は暗くなっていった
塩水の大群が押し寄せてきて
ひとつぶずつの
小さな人たちが
君と僕と同じように
小さな人たちが
彼等が慰撫し思いを傾けていた
物品たちとともに
抗いようもなく
のみこまれていった

宇宙は大きすぎる胃袋
いったいどれだけの小さな
ものをのみこめば
満足してくれるのか
誰にもわからない
ただひとつ
君や僕のように小さな
ひとつぶずつの人にわかるのは
僕等は何も
間違っていないということだけだ

何ひとつ
間違ってはいない
それで
こんなことになってしまった

春はなかなか訪れず
僕等は少しぐらい揺れただけでは
驚かなくなってしまった
それほどに僕等は
ここに慣れてしまった

けれども小さなものたちは
人のように小さな
いのちを動かすものたちは
いまもこうして
何かを窺っている
行方不明や死者の
それらの数字が無感情に読み上げられ
いまここにいるということに
気づいた僕たちは
それぞれに小さな
何かに気づき始める

小さな君よ
小さな僕と
同じように小さな
この領土に散らばるむすうの君よ
自らが生きていることに
気づいているか
君の小さなこころが
まだ寒い風にふるえて
頭の中を揺らしている
何度も
何度も
揺らしている
君のもとに
寄せては返す
大きすぎる苦難の波が
君の姿をそのたびに
洗い出すだろう

そして僕等は
自らのいのちの残量に気づいて
互いに挨拶を交わす
まるでそれが
小さなものであることの
確認であり
そうすることで少しだけ
大きなものになれる
呪文でもあるかのように

それから夜がやってくる
この世でもっとも暗い
けれどもそれゆえに
小さなものたちのいのちを
浮かび上がらせる
長い夜がやってくる



(二〇一一年三月)


自由詩 小さな君への挨拶 Copyright 岡部淳太郎 2011-03-14 02:37:10
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