冬の眷属
たりぽん(大理 奔)

寂しかった日のように
ひと晩で降り積もった雪が
きれいな景色だけを水銀灯に貼り付ける
夜明けすら凍らせようと
港では恐ろしいものが渦巻いている
(賀露の蟹漁船は眠りにつくころ)
わたしを捕らえて縛り付けようと
激しく涎を風に散らせながら
獲物を隠そうとする冬の眷属の影
雪起こしの稲妻があぶり出す
家路につくわたしの足に絡みつき
(寂しかった日のように)
こんなにも荒くれた季節をとおり抜けて
このまちを離れるということは
温かい笑顔と音楽から逃げだし
冷たく掴まれた足首がしびれても
足跡が吹雪にかき消されても
(わたしを捕らえて縛り付けようと)

カモメも消えた
トンビも消えた
クスノキも消えた
イチョウも、
消えた
(こんなにも荒くれた季節をとおり抜けて)

それでも透明に埋もれた
凍えたわたしのこの胸をとかそうと
あなたはbourbonを湯で割って
少し細身のグラスに注いでゆく
湯気のような雪煙にむせる

(カモメも消えた)
三連風車も消えた
灯台の灯りも消えた
滑走路の星座も
路地裏の看板も、
消えた

蟹漁船が眠りにつくころ
それでもわたしは逃れるように
家路につこうと雪を踏むと
小さな悲鳴たちが
この胸を、また凍えさせる





自由詩 冬の眷属 Copyright たりぽん(大理 奔) 2011-01-23 21:48:01縦
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