あなたは激しい加速を
乾 加津也

あなたは激しい加速をとり違えた氷のように歩いていた
わたしの喪失は人混みにもまれていよいよ遠のいていた
あなたの鈴のような耳のひらき
わたしはわたしのせいで気がふれてしまいたかった

“わたしの知らない、あなたを灯す”

引きちぎられた
黒いボタンの色褪せがゆっくりとはじまっている
すでに ことばに触れたものなら
にどとは死ねない戦域に
“いつまで氷を、生きますか”
あなたの俯いた口元からわたしの不在を閉めださないでほしい

 記憶の侵食が古巣をさがせとおおいかぶさる
 狼の
 支配のやいばをふりはらい いちど
 吹雪にむきなおる わずかな
 眼光

おぼえてはじめて追放をしる
けだるい朝に夢はころがり
砕け散ると
黒いボタンは部屋中に香った


自由詩 あなたは激しい加速を Copyright 乾 加津也 2011-01-11 21:10:15縦
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