かたられすぎ、とうとつすぎ
Six

「一人千円」という設定で、さらっと1時間ほど皆で酒を飲んで、店の外に出ると満月が上空に眩しく、笑みを浮かべながら家に戻った。道すがら、今度はこういう酒をアノヒトと飲みたいなあ、と唐突に頭にひらめき、その発想は自分でも悪くない、悪くないどころか上々じゃないか、と根拠の無い確信を抱きつつ、郵便受けを見ると、まさにアノヒトからの郵便が封書で来ていた。鞄と脱いだ上着と郵便物を抱え、玄関を開けて部屋に入り明かりを点けて、着替えに行くより先に、アノヒトからの封筒を開いた。いつもより丁寧に書かれた宛名の文字は、その時は全然気にならなかったのだが、封筒の中には薄いカードが一枚。カードには短い文章が書かれていて、最後に「さよなら」とあった。満月も、一緒に酒を飲みたいのも、「さよなら」も、何もかも唐突だ。安酒の熱燗のにおいが喉の奥にかすかにある。

まいった。糸が切れてばらばらにほどけた詩がゆっくりと落ちていく。空気が重いので、詩はいつまでたっても宙を舞い、底には到達しない。そのうちの幾つかは、わたしのものだ、と思ってしまう。例えば「語られなかった言葉たち」。他に題名を忘れた数篇。詩が空中を落ちていく様子は、それこそ紋白蝶が内緒話をしながら飛んでいるかのように、見えなくもない、のかもしれない。「語られなかった」と、そっとわたしに語りかけた、言葉の息遣いを、わたしは今でも憶えている。


未詩・独白 かたられすぎ、とうとつすぎ Copyright Six 2004-10-29 15:00:03
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