耳にタコを拵えてあげよう
錯春

 気の利いた言葉をどうにか捻出してみた
 ちんぷんかんぷんな比喩
 それでいてきらびやかな比喩
 女のテンションが干潮みたいに引いていった
 いつだって女の方が頭が良い
 賢いかは別にして
 女は
 俺の考えた言葉を
 捻り出した一呼吸を
「超メジャー」
 って
 斜め上から無残に袈裟切り

 
 
 俺が
 俺だけの思いつきで言ったはずの言葉は
 どうやら紙の上や地デジ放送の まな板の上で
 散々ネチャネチャ切り刻まれた
 傷み掛けの言葉だった
「今どき、そんなこと言わないでしょ」
 って
 面と向かって 俺の言ったような言葉を
 聞いたことあるのか お前
 自分だけに 届けられた手紙の中に
 見つけたことあるのか お前



 そこらへんに 
 甘味を搾り取られて石化したガム みたいに
 石化した 
 でも俺には とっても 素敵に見えた
 女いわく超メジャーでミリオンヒットに ありふれた言葉
 その言葉は 確かによく見かけた
 でも俺には とっても素敵に見えた
 俺は 
 そんな言葉を 自分が言えたら
 とっても
 素敵だなぁ、と



 ボケが

 

 俺の言葉
 素敵だと信じていた俺の言葉
 よくあるフレーズと同じ音
 ウンザリした女の顔
 
 俺が
 発した言葉は
 女には届かない
 よくある話ねバリアー!
 わかってるんだ
 全面的に俺が悪かった
 もうとっくに
 言葉をきちんと考えることが怖くなっていた



 クソが



 乱暴で粗雑 それでいて 添加物過多
 しかし口ざわり と 香り は 最高
 深く考えるのは怖い
 というか 
 そういう筋肉鍛えてないから
 巷で大盤振る舞いされている
 俺の言葉
 言葉は鍵で
 俺はこの鍵で 女の
 俺と同じ 素敵なものを 見えるように
 盲いた部屋の扉を開けてやりたかった



 (下品)



 ああ
 口が半開きだぞ
 どこにでも液晶の
 洗礼みたいな 清潔な光は クセになるだろう?
 俺の言葉は
 俺にしか届かなかった
 バカ
 伝えなきゃ
 使わなきゃ鍵じゃねえだろが
 俺の言葉に
 俺だけが被爆した




 傷つけるつもりじゃないのに
 ひとりは寂しいよ
 いや そこで笑うなよ
 そりゃ無視されたって 酒飲むし カラオケ行くし
 何だかんだでセックスもするし 飯も食うけど

 ひとりは嫌だよ
 ひとりは


 
 ひとりは 寂しい




 


自由詩 耳にタコを拵えてあげよう Copyright 錯春 2010-12-21 00:19:08
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