そこらへんにいる女
錯春


     その女は
     目も耳も鼻も利く
     しかし
     見たことにも
     聞いたことにも
     嗅いだことにも
     関心がなかった。

女の背後では物取りの手が蠢き
耳朶には猥雑な言葉の羅列
周囲をケバケバシイ臭いが覆い

     女はいつも ひとり
     女はいつも 騒々しかった。



「死んだような顔で味噌汁が沸騰しています」

 女はひとり  たったの ひとり
  それでも生きていた
    今まで 生きたことしかなかったので
死に方がわからなかった。
 飯を炊き、
   汁を炊き、     菜っ葉を炊き、
       魚を炊いた。
     女の台所には味噌と塩しかなかった。
     全ての食事を洗面器によそって食った。

誰も
誰も 叱ってくれなかった。



「味噌汁が吹き零れて焔とまぐわいます」

              女

        女として産まれた幸い と 災害
        物言わずとも
        利便性 機能性 耐久性 に 優れた
        新鮮な血の通った洞穴

    ぼんやりとした顔してますがこれでもNo.1の姫
          女 が
     背骨を曲げて 跪く その姿は

       まるで股間に許しを請う
       ようにも
       
         人の中に還りたがっている ようにも 見える。
   

     慈悲深い笑みをたたえた神々しく力強い雄 達されどザーメンの前では無意味!!!!!!!



     恐ろしい物語
     寒々しい物語
     残酷な
     悲劇的な
     猟奇的な 物語

     女 は
     哀しみもせず
     恋しがりもせず
     家賃を実直に払い
     虫が湧いた米を丁寧に とぎ

     人生は!
     終わらない!
     いつか終わるくせに!
執行猶予ですから
     未だ終わらない!
     女! 
     すべて 奪われて
     すべて埋め尽くされて
     !!!!!
情状酌量ですから

     女 は
     与えるものが
     未だに 涸れない
     


「恐ろしい 話だ。 性病よりも 恐ろしい 話だ」



 女はまだ健やかに生きている
 彼女の笑顔は聖母のよう。



 聖母のよう。

 


自由詩 そこらへんにいる女 Copyright 錯春 2010-12-16 14:05:21
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