メモリアル
ホロウ・シカエルボク




影の尾を掴み
痴呆する夕方
ぬるい病みの連続と
意識下の模索の交錯
爪を噛みちぎりながら
肉食の夢に
ひとしきり溺れた刹那
見下ろした欠片は
一滴の血液を滲ませることもなく


汚れない生はイミテイションに過ぎない


伝染病にやられる確率と
途切れない睡眠の頻度が一致する気がするのは
運命のどのあたりに留まっているのかと
思案の間に縮む日は消えた
ミドリガメが固形餌を静かに喰い尽くして
誰も渡れない
ミニチュアの橋の下で眠りにつくみたいに
水槽の中のいきものは
皆死んでるみたいな呼吸をする


呼吸の仕方を学んだり
芸術の仕方を選んだり
溢れすぎて迷い続ける
本当の自由は
目の前に並んだ皿の数ではなく
その中のどれが
自分の食せるものなのかを知っているということ
限定メニューや
お任せメニューではなく
確かにそれを並べられるかということ


冷たくなる夜の風は
どこか目を覚まさせようとしてるみたいで好きだ
臨終の床で
何度も名前を呼んでくれる人に似ている気がして好きだ
「いかないで」でも
「死なないで」でもなく
ただただ名前を呼び続けてくれる人みたいで好きだ


近くに逝ってしまった誰かを
深く愛しているかということとはまた別の話で


冷たく冷えた窓の外に
潰して丸めた昨日の死体を転がして
腐敗してゆくさまをずっと見てた、祝日
北風に揺れるさまはなんだか楽しげで
ころころとしたいびつな球体にどこかしら妬けてくる、文化の日




いつか朽ち果てるときには
誰かが呼んでくれるかもしれない


自分の名前だけは
心に刻んでおこう






自由詩 メモリアル Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-11-03 17:38:40
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