戦争/戦争/戦争
真島正人

やっぱり戦争は
起こらなかった

歌いつくした歌手の
少し疲れた喉が
歌を歌っている

午前3時を過ぎた頃
すっかりと時代は
変わってしまった

アスファルトが
材質を取替えられ
真新しい黒さに
恥ずかしそうにしている

歌いたい歌を
歌えた頃を
とおおおく
とおおおく

置き去りにしていく

やっぱり

戦争は起こらなかった

そんなところに
ミサイルは落ちなかった

そんな海に
波は立たなかった

むしろ
不自然な
大人びはじめた
14歳の少年たちの
ピンク色の肉体のほうが

おっ立っていた

直立
不動

ピンク色の柔らかさが
うらやましくてたまらない大人たちは

嘘ばかり書きたてた

「つぼみみたいな僕を許してくれ」



修辞に気を使い

分厚い本と一緒に
俗的なものを

パッケージングして

敢えてそれを

低⇔高の基準にしていた

美少女ばかりの世の中

カスタマイズすれば

それで煙が立たぬと

思ってやがるな



14歳にもなれば

少年も少女も一緒に

成長をろ過しはじめる

心と体が

いっしょにピンク色になって
細胞がうきうきと
弾み始める

スカートの中の
きらきら星を
少年たちは知らない

ズボンの内側の
いじらしさを
少女たちは
予測している

あんなのかな

こんなのかな

惨憺たる

状況だな

第一次報告です

あっちの小隊は

全滅です

小銃に刻印は

ありましたか?

ありました

なんて書いてましたか

ありました

「イハの67です」

はいはい

左様で



格好良いことを

格好悪いと

いえる勇気がほしいな

僕の14歳は

どこかにとどまって

狂って消えちゃった

ありがちな

言葉ばかり続けすぎたな

少年たち

少女たち
今日
教室で絵を描いた

みんな一斉に
ピンク色の小さい手で

戦争
戦争


画用紙に書いた

戦争


先生がもう一つ
書き足した

戦争は
三つよりそって
まるで温かい家庭だ

そこには
戦死は
何一つなく

反戦は意識を高揚させ
顔色を変えたまま
硬直していた

やっぱり戦争は
起こらなかった
そんなことは
ありえなかったと
口に出したのは
反戦だった

反戦は
トイレにおびき出され
頬がはれるほど
殴られた

青こぶをつくり
涙を流し
それでもまだ同じことを
口にして

そのうちに消えていった

お呼びでない冷たさに
耐えられない様子で



ところで
寄り添っていた
3つの戦争は

寄り添いあうことで
家庭の
暖かさを
獲得した

父親である戦争が言った

「いいか、生き延びるために、争いはするな」



子供である戦争は

まだ柔らかく

意味を獲得しない
細胞であったので

呼吸のようにそれを

吸い込み続けた


自由詩 戦争/戦争/戦争 Copyright 真島正人 2010-10-31 04:03:49縦
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