夏のおわりに
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夏のおわりに

大きなからだをゆっくりターンさせて
大好きな夏が帰ってく
ぼくはさようならと手をふる

夏の尾びれのような雨の中
はじけとぶ鱗の中をかけていく
いたいけど聴こえる
あなたが聴こえる
ありがとう
水しぶきと陽炎の季節
沸騰と蒸発の季節
あなたが帰ってく音が聴こえる
ぼくは泣かない
きっとまた会えるから

いつからか気づいてる
変わらないのは季節で
変わるのはぼくたちだと
さようなら
海の向こうへ
波の向こうへ
夏がはずかしそうに帰ってく
ありがとう
精いっぱいさよなら
よせてかえす波の音
あれは永遠なんかじゃない
ひとつひとつがさよならだ
ひとつの波がひとつのさよならだ
さみしくない
かなしくない
きっとまた会えるから

さよなら

さよなら

さよなら

しずかに

くりかえす

さよなら!

さよならさよなら!!

精いっぱい笑顔で
精いっぱい手をふる
雨が降りつづく砂浜で
砂のひと粒ひと粒に雨が透きとおる
しくしくと砂浜が鳴く
その上を蟹と小鳥がかけていく
さみしい拍手のようなあしあと
かなしいキスのようなあしあと

さみしくなんかない
さよなら!

かなしくなんかない
さよなら!

雨が降りつづく夜に
あたたかい毛布にくるまれるように
夏は水平線めざしてかけていく
よろこびの鱗がはじけとぶ
その中をぼくもかける!
全力で!
さようなら
力のかぎり手をふる
さようなら!さようなら!
わたしの鱗もみんなはずれて
たくさんの鱗が空にかけのぼって太陽にかがやく

夏の太陽さようなら
夏の空さようなら
夏の匂いさようなら
夏の空気さようなら
夏の音さようなら
夏のくも!
夏のかぜ!
青い水しぶきと
陽炎と沸騰と蒸発と

世界はめまいがするほど美しい

夏のくじらは
夜になると地球から旅に出る
朝になると地球に着陸する
そんな当たり前の魔法
くじらの目は太陽で
くじらの細胞はぼくたちで
くじらはきらめく星をどんどん飲み込んで
どんどん吹き出して
花火みたいなシャワーの中で
踊るみたいに
笑い転げるみたいに
照れ隠しみたいに
祈るみたいに

人を愛するみたいに


自由詩 夏のおわりに Copyright 投稿者 2010-09-28 00:04:47
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