自分の手を離れていった手紙のことについて
因子
ひとりきりになると
蝋をとかす匂いが
わたしの気道をふさぐので
雑踏をさがしに行きます
なんでもないふうにして
ポストへ落としたのだけれど
だけど、まだすこし
わたしの指にひっかかりをのこしている
たったひとりを心にとめて
便箋を探したし
封筒を探した
はやく書いてしまわなければ
はやく手放してしまわなければ
ばらばらになりそうな
熱をもってふるえているわたしたちを
おしこめて放してしまわなければ……
息をしている
封蝋の匂いをさがしている
もう ない
嘆息は一回
自由詩
自分の手を離れていった手紙のことについて
Copyright
因子
2010-09-15 00:42:15