ひとりしばいのけしょうどうぐ
たりぽん(大理 奔)

けさ見つけた虹の分光率を
記憶のプレパラートに照らし合わせます
虹は厚みを持たないので
それがふさわしい隠れ家なのです

もっとも似ている屈折率を
大地の公転軸に合わせて傾けながら
夕日に透かすようにかざしてみます
薄っぺらなものはなんて綺麗なんでしょう
赤方偏移したまま
ずるい感じで濃紺色の冷却層に
そんな実験です
  傷つくのは私一人でいい

どうも信号の分離が悪いようです
試料をそろそろ片付けましょう
綺麗なものだけを保存するために
液体窒素だって用意しています
  つめたいだけの
貼り付けた虹が割れないように
一日かけてゆっくりと冷やしていきます
薄っぺらで儚いものは
こんなにも美しいのです
  分離され薄らいでゆく私のかげ

まだ半透膜フィルターが安定していないようです
  虹色のシャツがとて
  も似合っていたね
凪いだ夜は再利用可能エネルギーの電圧が不安定です
  髪の長さも切り過ぎな
  んかじゃないよ
保存庫の温度が上昇してしまっています
  あったかいね

今日の実験は失敗のようです
副作用を私は覚悟しなければなりません
すべての電源を落としたら
暗闇に寝床をおき横になって
けして目を開けてはいけません
けして目を開けてはいけません

まぶたの裏の残像を寄せ集めて
また明日のために
きわめて薄っぺらでとびきり美しいものを
手に入れられないから美しいものを
むねの奥に隠すのです

ああ、また
傷つくのは




自由詩 ひとりしばいのけしょうどうぐ Copyright たりぽん(大理 奔) 2010-09-12 22:18:28縦
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