星を見る人
岡部淳太郎

僕たちは見ていた
星を
  夜の
    空の
それぞれの 星を
見ることで
何かが晴れ渡るわけではないけれど
僕たちは星を見ていた

夜の暗さのどこにも
それぞれの気持ちを投影する場所はなく
だからその隙間で頼りなく光る
いくつもの星に
僕たちは目を凝らした
後ろのどこかの森の中から
梟が鳴いた
口笛のようなその声は
何を告げるのでもなく ただ
夜の深い空気の中へと吸いこまれ
僕たちは
それを聞いたふうをよそおって
また頭上の
星を見上げた

けれども僕たちが
見ているのはほんの
いちぶぶんでしかなくて
宇宙のむすうに
ほんの少しでもふれることは出来なくて
だからといってそれに悲しむことはなく
僕たちは変らずに
星を見ていた

やがて夜の暗さの
谷間から漏れてくるものがあって
あ ながれる
それはすっといっしゅん
通り過ぎては消え
その軌跡に僕たちは
それぞれの気持ちを傾ける
よゆうもなくて
あ ながれる
そんなふうに消えて
あ ながれる
そんなふうに滅びて
そのいっしゅんあとになって
あれは流れ星というものだよと
誰かに教えられても
僕たちは ただ
呆然として
星を見ているしかなかった

僕たちは見ていた
星を
  夜の
    空の
それぞれの 星を
それぞれの自分のいのちに
重ね合わせるようにして
知らず知らずのうちに
見とれていた
後ろのどこかの森の中から
梟が鳴いて
(その顔は銀河のように回転し)
(その眼の中にはむすうの)
星 また星

僕たちは見ていた

僕たちは見ていた
それぞれの 星を
互いの間に埋もれている 星を
僕たちはそれと知らずに見ていた
僕たちは鏡の色
割れやすいその硬さは
僕たちを恐がらせた
夜だから
こんなに暗いから
なおさらそれが恐くなるのだ
そう思って
僕たちは星を見ていた

そして夜の暗さの
意味深い闇の間から
あ ながれる
それはすっといっしゅん
通り過ぎては
僕たちの間に見えない
亀裂をつくり
あ ながれる
そんなふうに消えて
あ ながれる
そんなふうに綻びて
だから僕たちも
同じように消えて
滅びなければならないのだと
割れた破片の小さなひとつずつとして
僕たちは納得し
納得しながらもどこか
へんな気持ちを抱えて
星を見ていた

僕たちは見ていた
星を
  夜の
    空の
それぞれの 星を
僕たちは見ていた

もうこんなふうに星を見ながら
どれだけの歳月が
ながれるように通り過ぎただろう
僕たちは星を見る人となって
他の似たような
星を見る人のことを
想像して
そのかたわらで
晴れ渡った空が
宇宙のむすうで
それらの星たちで
満たされるのに
圧倒されて
それでも変らずに
歪んだ星座のかたちをつくって
ひとつの大きな人のように
星を見ていた



(二〇一〇年八月)


自由詩 星を見る人 Copyright 岡部淳太郎 2010-09-07 06:48:59
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