炭食い
佐々宝砂

からっぽな心身にはなんでも入る
八杯目の焼酎も
ヒーリングミュージックも
ノイズも
精液も
入ったはしから空になる

ただ身体を通り過ぎてゆく
栄養にならない黒いかけら

歯も
くちびるも
そしておそらくは腸内も
真っ黒くなってゆく

炭を食ったことがないひとに
炭食いの気持ちはわからない

ていうか私にもわからない

わかるのは
必要なものがこの世にないということ
あるいは何が必要なのかわからないということ

がりがりと噛み砕く炭は
びっくりするほど無味で
無意味だ

窓辺では
猫にもてあそばれた茶色なカマキリが
片目をなくして
のたのたと歩いている
あのカマキリのほうが意味深い

森羅万象に意味があるとしたら
私と炭は森羅万象ではない

そう思うと
やたらに炭が愛おしくなり
またがりがりと炭を食い
九杯目の焼酎はさすがにやめておく



自由詩 炭食い Copyright 佐々宝砂 2010-08-31 09:15:47
notebook Home 戻る  過去 未来