しっこ
松岡宮

もしも娘が生まれたら
しっこ、と名前をつけましょう
失うという字で、失子、と、名づけましょう

おめでとうございます、元気な、女の子、
からだじゅう穴だらけ
からだじゅう未熟で
からだじゅう足りなさに満ちた
娘の名は
失子
丁寧に呼べば 御失子だ

あれから晴天が続く
おめでとうの声やカードが降り注いだ
その朝から産着や靴下を丁寧に着せられて
丸々とした
ほんとうに可愛い女の子

失子ちゃんは
得子さんになり
裕子さんになり
富子さん
恵子さん
豊子さんになり
それから最後は愛子さんになれるのかしら

渋谷の歩道橋のいちばん揺れるところで
年を重ねるとは失うことばかりだと
ブブブンブンと歌っている
落書きの嵐

もしも娘が生まれたら
しっこ、と名前をつけましょう
失うという字で、失子、と、名づけましょう

骨と皮と肉をめぐる排泄物のパレード
猛暑にただれる流れない川
生まれおちたときから失われるべきものなど
何ひとつない
失子なら
失子なら


自由詩 しっこ Copyright 松岡宮 2010-08-30 19:02:05
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