国際線
天野茂典

 


  怖かった
  (殴られることが
  なんにんもの教師が
  (殴られた
  誰が殴られても不思議はなかった
  荒れていた
  荒れ狂っていた
  教育なんてもんじゃない
  指導は少しもゆきわたらなかった
  恐るべき子供たち*
  私は自信をなくしていた
  私のいうことを生徒は耳傾けなかった
  学級破壊は幾つもあった
  私は優し過ぎたのだ
  生徒の味方であり過ぎたのだ
  (嘗められたのだ
  私に過失はあった
  ペスタロッチのような教師になりたかった
  なれなかった
  私は結局自分しか可愛がりはしないのだ
  傷つくのが怖かったのだ
  (カッコ悪かったのだ
  もちろん優しいいい生徒の方が多い
  荒れた教室の中で林檎のように過ごしていた
  いじめ
  登校拒否
  器物破損
  非行
  自殺未遂
  テレクラ
  薬物
  暴力
  SEX
  家出
  ピアス
  原チャリ
  なんでもありだ
  女の先生まで殴られていた
  私は傷つきたくなんかなかった
  生徒になんか殴られたくない
  (カッコ悪い
  怖い
  みんな私よりでかいのだ
  日本刀でヤクザに切りつけた卒業生もいる
  登校拒否になったのは
  生徒ではなくて自分の方だった
  私は3年休職した
  精神科に通いはじめたのはその頃だ
  fool on the hill*
  丘の上病院と呼ばれていた
  私は卑怯で臆病者だと思った
  (耐えがたい屈辱だった
  ろくなもんじゃねえ
  長渕剛ではないが私も自己断罪した
  でももう戻ってこない
  (歳月
  私は多くの優しい生徒を見殺しにしたのだ
  私が病まないわけがない
  蠍のように刺されると思ったからだ
   そんな折卒業生の学芸大学生の女の子と
   バイクでツーリングに出かけたのだ
   山の林道をめぐるオフロードバイクの旅だった
   初心者の彼女に一言の注意も与えず
   ダートに踏みこんだのだった
   彼女の走行をバックミラーで確かめながら走ったが
   途中大丈夫だと思って私はかってにスピードをあげた
   S字のカーブを何度もめぐってもう少しで頂上
   というところで彼女がついてこないのを知った
   引き返したしばらくゆくと
   (先生・・・先生・・・センセイ
   と呼ぶ声
   が聞こえた
   彼女は崖から落ちたのだった
   谷の底に動けないでいた
   圧搾骨折と知ったのはレスキュー隊に救出されて
   病院についてからだった
   バイクは木の股に挟まれて宙に浮いていた
   私は父親から優しく諭された
   きょうのコースは初心者には難しいと
   精神病院に駆け込む切っ掛けをつくったのは
   実はこの事件があったからだ
   怖かった
   悪かった
   私は落ちてゆく鳥だったのだ

  なぜ私はこんな告白をしてるのだろう
  わからない
  わからないけど
  水に浸ってシジミのようにからだの砂を吐いてしまいたいのだ
  楽になれる
  書くことによって癒しの効果が
  あらわれるかもしれない
  私は私の躁鬱症からたちなおりたいのだ
  
  
  それには読者が必要だろう
  読者のみなさんぼくに力を与えて下さい
  私が私に戻れるように■■■■■■■■





            *ビートルズ
            *ジャン・コクトー
            2004・10・17


未詩・独白 国際線 Copyright 天野茂典 2004-10-17 18:23:01
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