地下街の柔らかなリズム
ブライアン

暑い日の地下街、
ジャケットまで着込んだ、汗だらけの中年男性が
足音を立てている。

無数の出口に続く階段を通り過ぎて、
額の汗をぬぐい、隣の同僚に話しかける。

その足音は軽やかで、無駄がない。
踵を引きずるその音まで鮮明に聞こえる。

反響した足音が、
雑踏に消えるまでの間、
天井から差し込まれる日の光が、
彼の体を熱する。

改札口、
彼を飲み込む人ごみがやってくる。
彼はその間をすり抜ける。
額の汗をぬぐう。

人ごみもまた、
足音を立てる。無数の、柔らかなリズム。
脱水症状気味のリズム。

目の前の大きな改札口。
彼の買った切符は、惰性になった行為の繰り返し。
大きな改札口に気を止めるものはいない。
何かの間違いだろ、きっと。

場内アナウンスが流れる。
ただいま、機械の不備により改札が大きくなりました、と。
そうだろ、と彼は同僚に微笑む。

けれどその顔は青ざめている。
柔らかなリズムが肌に感じる。

世の中なんてそんなものなんだよ。
たいていの違和感は、不備による出来事。
気にしてちゃ身が持たないよ。

ため息を吐く彼をよそに、
周囲は騒々しい。
携帯電話、大声。駆け出す足音。
地下街。
音は響くのだ。

気にしてちゃ、どうにも身が持たないよ。


自由詩 地下街の柔らかなリズム Copyright ブライアン 2010-08-04 20:30:51
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