日常エラー
薬指

信号が全部赤だから
どこにも行けないと少年が言う

じゃあ全部青だったら
どこに連れてってくれるのと少女が言う

乗客のいないタクシーは
相模湖まで走り次々に沈んだ

地下鉄が瞬く間に水没して
七色に光るアロワナが泳いだ

俺はガスコンロに咲いた向日葵と
冷蔵庫を貫いた竹とを見比べている

板の間を大粒の雨が打つ正午
屋根があったはずなのにと悔しがっている

景色は至るところで裂けて
ひび割れから青い眼が覗いているエラー




信号が一つでも青になったら
どこかへ行こうと少年が言う

あなたは信号がなかったら
きっとどこへも行けないと少女が言う

幾重にも重なり合った自転車が
隅田川を完全にせき止めていた

埼京線の線路を行くインド象の群れは
終点を見ることなく果てていった

どこへ行くのと尋ねる女の片眼だけ
俺を静かに刺すように見ている

降り続く雨が止んでいない未明
頭の奥で誰か笑っている

やっとのことでそこに辿り着いた俺は
ここはどこだろうと呟いているエラー


自由詩 日常エラー Copyright 薬指 2010-07-31 03:19:58
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