在る
因子

その手に触れたら
現実がずれた






街に潜らないと独りになれない
名前と顔のないものが適当数、ほら
いま地に足が着いている

そろそろ去っていきそうな虚像
昨日のひとの横顔を
ほんとうは見ていないのに



美しいあごのラインを辿ると
鼻の奥でなにか、貴いものが焼け焦げていく
寺院や木像が煙をあげている
そういうものがねばついている


ひどく深みにあるものが
私の皮膚へと浮き出てくる

重力をねじ曲げる凶暴なうつくしさ
それは刹那的な、しかしだれかが切り取った


どこかへ走り去ってしまうものを、
ことばで以てすこしでもここへ留めておけるのではないかと
うまく処理することができるのではないかと
あるいは虚像の、さらに虚像でも、此方へ、


私はその向こうのひとを「うつくしい」と言う
これがただ、じかに声に出来る敬意です



ほんとうは
なにひとつ見ていないのに
もう去ってしまいそうな虚像
だけど私はやさしい人だと思ってる


自由詩 在る Copyright 因子 2010-07-04 23:01:56縦
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