夢でぼくは、旅人だった
あ。


自転車で


それは
全身がうす桃色に塗られており
まるで幸せを知った少女みたいだった
現実に乗っているものとは違い
錆なんてどこにも見当たらなかったし
ペダルはきいきいと不快な音を立てなかった


後ろには確かに誰かが乗っていた
振り返って確認したかったけど
運転中だからそれもかなわず
到着したら見てみたらいいやと
ひたすらに前進していた


ぼくらは、何処に向かっていたんだろう


いつの間にか山道にさしかかっていた
上り道の二人乗りはさすがに進まず
呼吸が苦しくなったので一旦降り
自転車を止めて深呼吸を大きくひとつ


そこで、やっと振り返ることが出来た


もういちど深呼吸して自転車にまたがる
きみも当然のように後ろにまたがる
足に力を入れてぐんぐんと坂道を上ってゆく
きみはぼくの恋人なんかじゃない
でもそんなことは大した問題ではない


到着した
何処に?


ブレーキをかけるときみは素早く自転車を降りた
すぐにその姿は見えなくなってしまって
残されたぼくの目の前にはただ、風景があって
明日にはきっと、懐かしくなるものだとわかった


桃色の自転車をこぐぼくたちは
一瞬だけの旅人で恋人だった



自由詩 夢でぼくは、旅人だった Copyright あ。 2010-03-05 23:17:31縦
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