白い原稿用紙
あおば

                    100222




余剰金はぞろ目銀行にお預けを
暗唱番号の数字は1から9までお好きなものを
早い者勝ちです
誕生日の祈念に如何ですか

1から9の数字がぞろぞろと行進して
雪晴れの原に行列する
余白が無くなると
古ぼけた三輪車がやってきて
荷台に積み上げて何処かに運んでゆく
遠くから見ていると自然現象のように無駄のない動きだ
満杯のオート三輪が白い空間にハンドルを切って轍の文字を描くと
前輪が悲鳴を上げて鋭いエッジを刻み車体が少し傾く
まるで呼吸をしているようだ
もっとスピードを上げてスキーのようにスラロームを楽しみたいが
仕事中なので我慢している顔が目に見えるようだ

縁起の良いぞろ目銀行が
街の中心で営業しているから
今日も朝の空気が整って
呼吸が楽になる
それに
信号機の光源が
電球から
LEDに変わってからは
昼間でも青信号か良く認識できるようになったと
皮肉を言われた
徹夜した白い顔の男達が
物憂げに見あげる街角には
食べ残しのおつまみのような白い月骸が
青空に昨晩の飲み過ぎの反省文を書かされているのだと
通学の児童に語りかけるいい加減が大好きな男が
カバンから買ったばかりの原稿用紙をとりだして
おもむろに筆記する
誤字脱字が多いその反省文は
読むに耐えないのだが
書いた本人は
今が判読できるからそれでも構わないと信じている
文体も整っていないから原稿用紙が可哀相と
読まれることのないことばの嘆きが聞こえるような
明るすぎる今朝のぞろ目銀行前の信号機が赤から青になり
人々は一斉に渡り出す
筆記中に取り残された男の姿が黒い小さな影となり
見えたり見えなくなったりしていたが
呑み込まれたのか流されたのか
それとも書き終えたのか
いつのまにか完全に姿を消した月骸の朝




「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、ABさん。


自由詩 白い原稿用紙 Copyright あおば 2010-02-23 00:21:53
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