ホテル・リグレット
小川 葉
ちょい悪オヤジがホテルに泊まった
何かの手違いだった
手違いだったはずなのに
彼はホテルの一室で
快適な時間を過ごしていた
ノックする音がして
ドアを開けた
ボーイだった
ボーイはちょい悪オヤジに
そのように言った
すみません
手違いだったのは
ホテルではなく
ちょい悪オヤジでした
ちょい悪オヤジは
もはや「ちょい悪」でもなく
「オヤジ」でもない
「ちょい悪オヤジ」は
ただの「○○○○○○○」でしかなく
それ以降それ以外が
世界となった
一方ホテルは
「ホテル・リグレット」に名前を変えた
何かの手違いだった
手違いだったはずなのに
その名前のまま営業を続けた
手違いだったのは
「ホテル」のほうだったのに
「リグレット」が残った
「ホテル」はただの「○○○」となり
荒野の果てに
赤ん坊が生まれた
そのことを知る由もなかった
名前のない赤ん坊の
「○○○○○」を
「リグレット」という文字で埋めた
それが名前だった
生まれて寿命まで生きた
そのことに
手違いはひとつもなかった
それこそが
何かの手違いだというのに