ホテル・リグレット
小川 葉

 
 
ちょい悪オヤジがホテルに泊まった
何かの手違いだった
手違いだったはずなのに
彼はホテルの一室で
快適な時間を過ごしていた

ノックする音がして
ドアを開けた
ボーイだった
ボーイはちょい悪オヤジに
そのように言った

すみません
手違いだったのは
ホテルではなく
ちょい悪オヤジでした

ちょい悪オヤジは
もはや「ちょい悪」でもなく
「オヤジ」でもない
「ちょい悪オヤジ」は
ただの「○○○○○○○」でしかなく
それ以降それ以外が
世界となった

一方ホテルは
「ホテル・リグレット」に名前を変えた
何かの手違いだった
手違いだったはずなのに
その名前のまま営業を続けた
手違いだったのは
「ホテル」のほうだったのに

「リグレット」が残った
「ホテル」はただの「○○○」となり
荒野の果てに
赤ん坊が生まれた
そのことを知る由もなかった

名前のない赤ん坊の
「○○○○○」を
「リグレット」という文字で埋めた
それが名前だった
生まれて寿命まで生きた
そのことに
手違いはひとつもなかった
それこそが
何かの手違いだというのに
 
 


自由詩 ホテル・リグレット Copyright 小川 葉 2010-01-15 03:02:36
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