実に面倒臭い生き物です
仁惰国堕絵師

実に面倒臭い生き物です
ミルクともヨォグルトともつかぬ雲が
蒼白い画用紙にもっさりと乗っかっているだけの空
針の匂いの突き刺さる景色はただ想像するだけで
心は常に深淵に投げ込まれてしまうのですが
その反面、墜ちるところまで落ちてしまえばいいと考えたら
なんだか清々しくもあるのです

実に面倒臭い生き物です
夏の終わりに骸を惜しげもなく晒す蝉が
車に潰されアスファルトにカンカラと張り付いているさま
何かが終わり、何かが始まる気配はただ想像するだけで
万物常に流転する感動に打ち震えたりもするのですが
その反面、回っているのではなく途切れてしまうのかもと考えたら
なんだか寒々しくもあるのです

実に面倒臭い生き物です
あたりかまわずのたくる蛆を払いのけてまで
それを口に入れる卑しさを忘れた生き物
どこへ向かうか、行き着く先はどこかはただ想像するだけで
未来永劫続くと信じる万華鏡の多様性を許容する平和を謳歌していますが
その反面、誰も彼もが実は同じ了見で生きているのだと考えたら
なんだか腹立たしくもあるのです

実に面倒臭い生き物です
忘れようにも思い出せない
思い出せないのは記憶が消失したからなのではなく
脳の性能がそれを都合良く補填しているからなのだとただ想像するだけで
自らを”万物の霊長”と名乗る恥ずべき傲慢を愚劣だとののしるのですが
その反面、食物連鎖の頂点であるという恩恵を今までも、これからも
確かに享受し続けていくのです

実に面倒臭い生き物です
愛おしいほどめんどくさい生き物です


自由詩 実に面倒臭い生き物です Copyright 仁惰国堕絵師 2010-01-12 12:33:44
notebook Home 戻る