一生
アンテ


                  「メリーゴーラウンド」 8



  一生

ぐるぐる回るものが
昔から好きだった
図書館で本を読んでいて
ふと見あげた壁かけ時計から
目がそらせなくなったこともあった
公園でぐるぐる回る遊具に乗って
体を仰向けにして
一日じゅう空を眺めていたこともあった

ドアを見つけて開けるたび
そこはちがう場所で
宝探しみたいに次のドアを見つけて
開けると
やっぱりちがう場所で
という具合に
どんどん先へ進みつづけた
ポータブルの吸引器を持ってこなかったのは
一生の不覚だけれど
今のところ
ようくんの呼吸は安定している
ふんふふん
鼻歌をうたいながら歩いていると
ようくんが拗ねて
ちゃっかりしてるなあ
だって冒険って大好きよわたし
などと手話でやりとり

ぐるぐる回るもののことを
考えていると
なぜ気持ちが落ち着くのだろう
洗濯機
地球
なにかの役に立っているだなんて
自分に暗示をかけるほど世間知らずじゃない
血液
ルーレット
自分の意志で回っているだなんて
夢を見るほど脳天気じゃない
ぐるぐる ぐる

もうだめ ふらふらーっ
喉かわいたね
次のドアを開けると
とてもかわいい部屋に出た
ソファはふかふかで
テーブルのうえには
冷たいオレンジジュースのコップがふたつ
二人ならんですわって
ジュースを飲みながら
新婚さんみたいねって言ったら
ようくんは慌ててわたしから離れた

一生ずっと
っていう言葉の重さを
わたし まだ
わかっていないんだろう
具体的なことを考えるのは怖い
ぐるぐる ぐる
螺旋階段みたいに回りながら
どこからか
どこかへ
自動的にたどり着くことが
人生なら
さぞかし楽ちんだろう

かちっ
心のなかのスイッチを切る
なんてひどいことを
考えるの
わたし

窓のそとばかり眺めて
クラスメートを無視して
自分だけわかっているふりをして
腹を立ててばかりで
これっぽっちも
わかっていないくせに
全然まったく
わかっていないくせに

ああ だから
ぐるぐる回るものが好きなんだ
わたし
まわりに壁を作って
閉じこもって
そのなかでおままごとをして
ようくんも
おままごとの

切る切る切る切る
スイッチを
ぜーんぶオフ
これ以上
なんにも考えたくない

ようくんがわたしを見ている
目をあわせられなくて
そろそろ次のドアを探さなくちゃ
って言葉のかわりに振り返ると
ドアがあって
ずっしりして丈夫そうだ

よしくんもわたしも
うなずいただけで
なぜか
立ち上がれない

ぐるぐる回っているだけなのだろうか
わたしたち


                 連詩「メリーゴーラウンド」 8





自由詩 一生 Copyright アンテ 2004-09-20 22:33:29
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メリーゴーラウンド