夢で詩を書く
snowworks
十時間も眠るとき、最後三時間の夢はオールフルカラー。あまりに手近なのに摩訶不思議な夢世界だから、これを捨てるのはもったいない。僕は夢で詩をつくることにした。
まず辞表を提出。「夢を大切にしたいんです」と部長に言ったら「不況なのに結構なことです」と褒められた。早速帰りに一組布団を買って隣室にひいた。それからタバコ屋に行ってセブンスターを買い、店番の小娘に
「ちょっとバイトをお願い。夢関連の仕事なんだ」
「幾ら?」
「十分な分だけ。退職金があるし」
小娘は承諾した。
夕焼けが終わる頃には、僕は入浴・夕食を済ませていた。
「じゃ明朝五時ごろから頼む」と隣室の小娘にいって襖を閉め、僕は床に就いた。
僕がその晩見た夢とは、友人の妹が結婚することになり、なぜか彼女がその司会を僕に依頼し、僕もどういうわけか同意し、そのクセ直前になっても準備はできず焦る、という内容だった。彼女とも小学生のときからの知り合いであり、もしかすると彼女は僕のことを好いてるんじゃないか、と考えることがある女性だった。夢では、式の直前まで式次第も渡されずに僕は司会の席で汗でぐっしょりになり、勿論心地よい夢とは言えなかった。
起きると小娘はノートと鉛筆を握り僕の枕元に正座していた。
「どうだった?」
「寝言は確かに言っておりました」
「ではノートを見せてみて」
「はい」
ノートの一ページ目は白紙だった。二ページ目も三ページ目も、すべて白紙だった。
「どうして白紙なの?」
小娘に尋ねた。
「だってあんまり面白い寝言だったから」
小娘が初めて笑った。僕は自分の夢を話して聞かせた。小娘は云々頷きながら聴き、その後、
「友人の妹さんは、本当に結婚してるの?」と尋ねた。
「友人からの便りではそのようだ」と答えると
「そうですか・・・。私眠くて死にそうなんです。まずぐっすり眠ってからお駄賃を頂きますから」と言い残して隣室へ行き、襖を閉めた。
僕は次の二つのことを考えながらその日を過ごした。
一.小娘がタバコ屋を休んだら、一体誰が店番をするのか。
二.なぜ小娘は、友人の妹が結婚しているのか僕に尋ねたのか。