詩想 —2
黒乃 桜
別に、好きでも嫌いでも無かった。
小さい時からそれをやっていて、ただ人より上手に出来ただけだった。
劣等感を感じて、辞めちまえ、と罵る輩の気持ちが痛いくらい分かってしまったのは
それから何年と経った日の事だった。
誰かと比べて自分の能力の低さを思い知ったわけでもなかった。
ただ呆然となった。ただ呆然と、そうか楽しくないのか、そうか好きじゃないのか、という事を思い知った。
それがなぜだか酷くショックなことで。もう全て投げ出してしまった弱い人間だ。
心のどこか、そんな風に自分を蔑みながら、どこかの誰かから送られてきた新品の青いマフラーを見つめた。
勇気なんてそんなもん、知ったことか。
気付けばカッターを取り出し、気付けば送り主が自分のために一生懸命選んだであろうそのマフラーをズタズタに引き裂いていた。
それにまた嫌気が差して、ズタズタになったマフラーとカッターをゴミ箱に放り込んでベッドに突っ伏した。
「ああもう何もかも終わってしまえばいい」
ベッドに突っ伏したまま呟く、自分のくぐもった声が消えていく。
強いていうなら試奏が、しっくり来てしまったという事。
そんなはずじゃなかったのに。
最初から、上手に行く事なんて無いってみんな言ってるのに。
なんで自分だけ、こんなに上手くいってしまうんだよ。
ぐしゃぐしゃっと髪を片手で掻き上げて、そういえば、と思い出した。
昨日のお兄さん、どうしてるかな。何てどうでも良い事を思いついた。
顔に「今から死にます」と書いてあるように思わせたあの顔。思い出してくすくすと笑った。
「本当に死んでたりして」
ああ、もうどうでも良いのに。
呟いて、一人で笑って、またベッドの上に蹲る。
横を見ると、邪魔なグランドピアノがそこにいる。
広いはずなのに狭く感じるのはそいつの所為だった。
お前もどっかいけよ、と思いながらピアノに背を向けて目を閉じたのだった。
鏡の向こうにいる情けない顔をした自分を見て、由夜は溜息を零した。
家に帰って真っ先に、このきったない顔を洗ったわけだが。
こんな事で死ぬと決まっている寿命が延びる気もしないし、それを聞いて正直に顔を洗っている自分もなんだか嫌だ。
「何かむかつくよな」
鏡の中の自分に話しかけて、はぁぁ、とまた深い溜息を零す。
タオルで顔を拭きながら、さっきのあいつは何だったんだろうか、とまた思い返してみる。
ただ、そう言われただけなのに。何故か妙に心に引っかかる。
また会ってしまいそうな気がする。根拠とか、もちろん無い
「・・また、会えるよな・・?」
鏡の中の自分が、小首を傾げた。
次の瞬間鳥肌が立つ勢いの気持ちの悪さを覚え、由夜は持っていたタオルを床に投げ告げた。
「馬鹿か!俺は恋する乙女か!落ち着け俺ッ!落ち着けーっ!」
夜中にもかかわらず大声で叫びまくり、一瞬でも乙女が入った自分を罵り続ける由夜であった・・。
+ + + +
わーい乙女ー
まだ続きます(´Д`*)
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