著者二十代で刊行した第一詩集から第七詩集まで、
半世紀に渡る鋭利な感性の詩編とエッセイからなる一冊である。
この凝縮した水野ひかる氏の世界は、
幾重に年月を経ようとも衰えない「女性力」を感じる。
つまり女として魅了される感性が、娘、妻、母、祖母と
求められる役割が変わろうとも、
決して色褪せず段階を追うごとに深みを増してくる。
女性としてこんなに美しいグラデーションを、
詩集で描ける詩人はそういないのではないだろうか。
ことしもこんなにひどく/障子は愛を吸いとってしまった
(第一詩集『鋲』より「十二月のことば」
これはこの作品第一連冒頭の二行である。
ここに第一詩集ならではの若い陶酔を感じる。
惹きつけるような鮮やかな紅色をそこに見た思いだった。
母になった女が娘にそっと差し出すちいさなひかる卵/生命を宿
す女の身体は水を湛えて/孵化し脱皮をくりかえす(中略)蛇を
踏みつづけてきた女の歴史
(第七詩集『抱卵期』より「snake・みずのおんな」
「産む」という性を通過し、役割を経てきた第七詩集からは、
深みのある落ち着いた朱色が、磨かれた艶を放っている。
女性詩人として成熟度の変遷が、詩集を重ねていく度に濃く深く沁みてくる、
読み応えのある詩集である。ぜひ一読していただきたい。
2009年『詩と思想』10月号掲載