回文は知性の不可逆を駆逐する
竜門勇気


回文考えました。

旦那と、鳩なんだ。



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あれからどのくらいたっただろう。

失敗続きの僕はあの日も独創的な失敗をいくつもやらかし、
頭からぐっしょり甘酢餡と革靴をかぶったお客様に頭を下げていた。
さらにはお詫びと"オカリナの硬いところで、ベストを尽くしながら殴る"を取り違えて、餡まみれのお客様をノックアウト。
ダウンしたお客様にトペ・スイシーダを放ち、ぐにゃりとした首筋にパロスペシャルを食い込ませているところを、「美味しい蜂蜜、来来軒」の若旦那に取り押さえられたのだ。

旦那は僕の首根っこを掴むと近所の公園"性の広場"に引きずっていき、ベンチに腰掛けカシューナッツを辺りに撒き、仏像を彫り、その仏像(ぱっと見た感じはエルヴィスですが、腕が少し多いので違うな、と感じます)に五体倒地した後、改めてカシューナッツを満遍なく撒き、言った。

「お客様は、鳩なんだよ」

「え」

「みんな同じ、平等。だけど、みんな違う平等を持っている」

空が一瞬暗くなり、耳をつんざく羽音が響いた。
陰が足元から逃げ出し若旦那に集まった。
「その平等は、与える側の責任だ。支払う平等は対価なんだよ。鳩と俺は互いに与え合う。」
笑顔の旦那の姿が鳩の中に消えた。
僕は明日の自分の姿を探してそこを見た。

いきるってことは

「旦那と、鳩なんだ」

ちらりと見えた旦那は優しく鳩を見つめていた。


散文(批評随筆小説等) 回文は知性の不可逆を駆逐する Copyright 竜門勇気 2009-09-26 03:55:14
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