拝啓、
alice.


第三次世界大戦の最中に生まれました。名前と性別はありませんが血液型はB型だと聞いております。真偽は定かではありません。小さい頃に飼っていたパパとママとイモウトという名前の生き物(なんという種類だったのかは今になってもよくわかりません)と散歩に出かけることが好きでした。でも彼らはいつからかいなくなってしまいました。戦争に巻き込まれて死んでしまったのだと風の噂で聞きましたがこれも真偽は定かではありません。いったい生まれてからこれまでなにかひとつでも定かなものを手に入れられたでしょうか。私にはよくわかりません。


『それじゃあさ、一度、死んでみるってのはどうだい。死ぬっていっても'人間として’の話さ。君がその欲望とか傲慢、喜怒哀楽なんて感情すらもなくしてしまって、誰でもいい、誰かにとって―例えばいま向かいのホームに上がってきた銀色の靴の女の子とか、本当に誰でもいいんだ―その欲望を十二分に満たすことのできる存在になったとしたら。彼女はこれ以上ないくらいの甘美な言葉でもって君を愛してくれるんじゃないか。死んでしまってからそれを愛情と受け止められるかどうかは、やってみなくちゃわからないがね』(左脳に住むある老鼠の話)




散文(批評随筆小説等) 拝啓、 Copyright alice. 2009-09-23 01:27:36
notebook Home 戻る