いとおしいきもち
アンテ


きょういちにちだけは
あらゆることを
いとおしいとおもうことになった
まちへでると
いつもならいやでたまらないことが
むしょうにいとおしくて
そのたびたちどまってひろいあつめるうち
かばんがいっぱいになって
おもくてもちあがらなくなった
どれもすてがたくて
とほうにくれるうち
よるになって
まちのちゅうしんがあかるくうかびあがった
あたりをみまわすと
ほかのみんなも
おもいかばんをひきずって
あかるいほうこうをめざしていた
わたしもまけずに
あとをおいかけると
おおきなひろばにたどりついた
ひろばのまんなかで
ほのおがはげしくもえあがっていて
あつまったひとたちが
まわりをとりかこんでいた
ひとのかずだけかばんがころがっていた
ちょうどそのとき
まよなかのかねがなりひびいて
するととつぜん
かばんのなかみなんてみるのもいやになって
ひとつずつ
ほのおになげこんだ
まわりのみんなもおなじように
かばんのなかみをつぎつぎとなげこむので
ほのおはますますいきおいをまして
ひるまのようにまちがあかるくなった
よがあけるころには
それでもぜんぶもえつきて
ほのおもしたびになったので
からっぽのかばんをさげて
みんな もときたみちをかえっていった
みわたすと
まちはずいぶんさまがわりしていて
いとおしかったことも
いやだったことも
きれいさっぱりなくなっていた
なにもかもが
ほのおにやかれてしまったのだとおもうと
だんだんはらがたってきて
でも
じぶんだってもやしたひとりなのだし
そもそもこんなものがあるからいけないんだ
かばんをなげつけると
なさけないおとをたてて
ぺしゃんこになった
なんであのときいっしょにもやさなかったんだろう
おかしくて
なみだがとまらなくなった




自由詩 いとおしいきもち Copyright アンテ 2004-09-11 23:42:06
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