付録がほしい
白紙
詩人さんへの個人的な要望です。
私的国語辞典というか私的定義集というか
使用した言葉の「脚注集」のようなものを付した詩集があれば
私は買いたいなと思います。
絵画の世界でもそうですが、
たとえば西欧の祭壇画で、鳩が描かれていればそれは神の声の象徴であり
青いマントを羽織り百合の花を手にしていれば大天使ガブリエルといったように
ある文化を基盤にした共同体が確立されていた時代には、図像にしろ言葉にしろ、
共同体の成員すべてが理解できる共通のイコノグラフィがありました。
祭壇画が「見る聖書」や「読む絵画」と呼ばれていたのは
共同体の成員ならば誰もが「読めた」からですが、
しかし近代以降、共通のイコノグラフィは壊れてしまいました。
近現代のアートは「読めない」作品のオンパレードです。
ピカソの『マ・ジョリ』という絵は、彼の恋人に捧げられたもので
だから画中にマ・ジョリ(我が恋人)という文字が書かれています。
そんなこと、見る側の感性だけでは分かるはずもなく、
極めて私的なイコノグラフィ(図像学)と言うことができます。
詩人もまた極めて私的な象徴性を言葉に内蔵させるわけですが、
私はそれを詩人の自慰とは思いません。
描かれた世界とは眺められた世界からの切り離しであり、
同様に詩語もまた日常で語られた言葉からの切り離しです。
この分離に、かつての共同体のイコノグラフィが使えない以上、
詩人はそこに「わたしのイコン」しか込められないでしょう。
その私的なイコンを、私は理解したいです。
表現内容の深い理解ということではなく、約束事の理解です。
たとえば幻想小説などによく架空の地図が付いていますよね。
こういう世界が舞台だよ、という作者からの約束事の提示にたいして、
読者は「実在しない地名じゃないか」なんて野暮なことは言わないし、
実在しないゆえに作者の自慰だとも言わないでしょう。
すべての詩集に脚注付録を求めたいわけではないですが、
そんな詩集もあったら面白いな、と思うのです。
作者自身による脚注の内容から作者の思想や人となりが伺えるので、楽しいだろうなと。
(編者や訳者による脚注はよく見かけますけど)
難解と言われる現代詩を少しでもとっつきやすくするために。
読者に伝わることを優先して詩そのものを変形させないために。
ちなみに。
オナニーという言葉はあえて避けました。
聖書に描かれたオナンの行為は「膣外射精」ですから。