アポカテラロ 水の箱
人 さわこ
打点の高い告白は、そのまま私の心になった。
「わすれるもんかいな」
叔母は笑っていた。
庭先には叔母の植えた抱えきれないくらいの花が。牡千幸のむせるような香り。柿の木。知ってる。夏休みがあっという間に終わって、瓦の罅にお願い事をしたこの両手は、本当はどこか遠い星の生命体のくだらない閃きだったのかもしれない。ずっとそんな事を思っていたけれど、小さな道に墳つほんの小さな小さな馬鹿の山。誰がつくったのか。小さな道が消えた果ての大きな大きな馬鹿の穴、誰が掘ったのか。もうずっと出られなかったんだな。
「約束を聞きにきました」
「わすれるもんかいな」
「思い出せないんだ」
「昔のことや」
擦れた新聞紙の燃える音は学校中に響いた。
昔から止まっていた感覚。立ち止まったまま、見えなくなったもう1人。ときどき、どうしようもなく会いたくなるもう1人。林の中、目を瞑って走ったまま、消えてしまいそうだった、殺してしまいたかった。
1人は影といった。
貧しい生活から開放してくれた1人を、影といった。学校の裏の林に出る、怖い怖い妖怪。みんながうわさしていた、一つ目のおっかない顔した妖怪。私だけと目が合った影。どうしても向こうに行きたかった。空の暗い雨の後。林を抜けたら、会える。