アポカテラロ 4/1
人 さわこ
注意深く見ていると、その姉妹は医者と口論をしている。
自分たちが何のために生きているのか、なぜ生まれてきたのか。赤レンガのその小屋は、私の記憶を巻き戻し、砂嵐の映像の中にふと懐かしい姿が映る。聞こえたのは母の声だった。私が生まれた日、私があなたに選ばれた日。12月の風、話し声、脳に響く涙、光。広いとは思えなかった空が、生きるように広い。40年。窮屈だった鉢植えの中で、私は大人になった。
「必ず出会えます」
切符を買った。たった今ここに舞い降りたあなたを、認識できたから。
叔母の家へ行こう。真白な心に釘を打とう。会いたい人は居た。何をすればいいかも、ずっと知っていた。ただあまりにも遠い遠い奇跡に、私たちは怯えていただけだ。何もかもが間違いで、そうだ、私が切り開いた未来に肝心の私がいないじゃないか。午前2時、聞こえるはずもないアナウンスを終わらせ、擦り切れた毛布を頭からかぶり、目が覚めるのを祈った。
覚えている。少年の私はこの川をまたぎ、この公園で私を待っている。向こう岸には握りこぶしの花が見える。誰にも知られなかった場所を、私は見つけた。草を掻き分けて坂を上れば、きっと泣けるだろう。からからになった喉をほったらかしに、何をしていただろう。大人の声が怖かった。首飾りのつくりかた。ポテトチップスの袋。それを見守るような顔をして。
ああ、よかった。大丈夫だ。ちゃんと流れている、しっかりと伝わっている。忘れたくなかったんだよ。本当に本当に、好きだった。
枝を折り、土を掘り返す。変わらずに在ったことを思いながら。
砂を払うと、人魚の美しい缶詰が、私は好きだった。手袋が片方だけ、私は好きだった。写真、私は好きだった。ジーンズの針、私は好きだった。
なあ、大人たち。私は今日が好きだ。