俺はご先祖さま
小川 葉

 
 
http://www.youtube.com/watch?v=xYJEzzhvj0E


このドラマ、知ってますか?
僕が子供の頃、とても好きなドラマでした。
こういう懐かしいものを今あらためて見てると、
このドラマのストーリーよりむしろ、
見ていた背景を思い出してしまいます。

主題歌を聞きながら、目を瞑ると、浮かんできます。あれはたしか、
祖父と祖母の部屋で見ていた、夜八時ごろ、日曜日だったかな?
祖父は早々と隣の寝室でいびきをかいていて、
祖父がいつも座ってる、肘掛付きの座椅子に僕が座り、
テレビが右側にあり、祖母が左側に座っていて、
主題歌が終わって、コマーシャルになって、ふと祖母を見て、目が合うと、
口をおさえて俯いて照れながら笑っていた。
そんな景色が、目を瞑ると、次々とよみがえる。

部屋の壁には、日本刀が額の中に飾られていて、
あれは本物だったのかしら、でも、もし泥棒が入ってきたら、
あの日本刀で、僕が泥棒を退治するのだと、真剣に思っていた。

壁時計の下には、大平総理のサイン色紙がある。
あれも本物だったのだろうか。
その色紙の下には、金庫があって、家は商売をしていたから、
経理をしていた叔父が、時々それを開けるのを見ると、
中にはお札がたくさん入っていた。
あれはきっと、本物だったのだろう。

夜八時ごろ、いつも父がお風呂に入っていた。
ソニーのトランジスタラジオで、野球中継を聞いていた。
ときどき湯船に落としてしまいけど、
乾かせば大丈夫だと言って、翌日の八時には、
また野球中継が、お風呂から聞こえてきた。

僕もよく父の真似をして、
風呂に入りながらラジオを聞いた。
中学生の頃、流れていたスティービーワンダーの「心の愛」
あれが流れてきたときに、不思議といつかこの時を、
思い出す日がいつかくるような気がして、
いつまでもぼんやりと、湯船のお湯をじっと見ていた。

いろんな景色が見えてきた。
あの日の家族が暮らしていた、色も匂いも音も気配も、
忘れていた記憶が次々とよみがえり、
静かに目をあければ、
あの日の家族とは少し違う、僕の家族が、今ここにある。

ドラマのタイトルは、俺はご先祖さま。
息子の寝顔を見ていると、不思議な気持ちになってくる。
妻の寝顔も。
 
 


散文(批評随筆小説等) 俺はご先祖さま Copyright 小川 葉 2009-08-28 03:02:57
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