アメリカの英雄に捧ぐ
服部 剛

あなたが地上から旅立って間も無い今 
こうして語るのは月並みだが 

友達でもないのに僕は言う 
マイケル、 
あなたが音楽の神様に選ばれた 
天使のように 
あふれる歓びを踊りながら歌った 
あの頃の姿が僕は好きだ 

丘の上に立って 
天使の歌のコーラスを 
奏でる子供等に囲まれた中心で 
幸せそうに歌っていた 
20世紀のアメリカの英雄は 
世界を見渡す頂の裏側で 
足を滑らせ 
長い余生の絶壁の 
岩肌にぶら下がり 
たった独り、よじ登っていた 

ネバーランドは夢の国 
ピーターパンは姿を消した 
今夜 
世界中のラジオから 
We are the Worldが流れ出す 

その頃日本のとある町では 
老人ホームの風呂場で働く 
ずぶ濡れのTシャツ・短パン姿の僕が 
あなたの歌声を背に 
お爺さんの骨ばった背中を 
ごしごしと磨いていた 

友達でもないのに僕は言う 
マイケル、 
僕はムーンウォークもできないし 
英雄なんかになれないまんま 
この変哲も無い出来損ないのネバーランドで 
毎日安月給に喰らいつこうと 
しょっぱい汗水、垂らしているよ 

自分の顔にメスを入れる 
勇気さえ持たずに 
格好悪い自分のまんま 
ありきたりのうたを 
こうしてここで、語っているよ 

誰も知らない深夜 
見上げた 
夢の星空に 
足音の無いムーンウォークの黒影が 
ましろい月を、横切る 

あの日、客席を埋め尽くした 
何万人もの歓声が今宵 
星々の囁く夜空に、響くだろう 








自由詩 アメリカの英雄に捧ぐ Copyright 服部 剛 2009-07-01 19:41:32
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