あの頃の
蒼木りん

二十五年ほど前に 迷って手に取った この詩集は
町の 今はもうない本屋の棚の 高い場所にあった
ジュニア文学とかなんとかいう 厚手の本が並んでいて 
『ビルマの竪琴』と
どちらにするか悩んだけれど
勉強のわからなかった私でさえも
後ろ髪を引くような言葉が並んでいたから
そこで「さよなら」したくなかった

先ず

詩の
短い文字の列がすきだ
しかし
すべての「詩がすき」ではない

それは
坦々とした生活の中の 
しずかに燃える蝋燭の灯りのような詩
織り込められる情景 身を捩るような激しさ 苦脳の故 
読み手が 感情の淵に追い詰められてゆく 

二十五年後
緑のカバーも外されて
セピア色とは こんな色か 
というふうに変色したぺージが
いっそ 哀しい

もしも
読み手のこころを捕まえようとして書かれたのならば
元々が死んでいるという危惧は否めない
世間に出すものならば 多も 少も 有りうることだろうが
感情の原型が 崩れていない
より その こころ模様に近づくべく描写されたのであるならば
それは妙て他人のこころを捕らえる
絵画と似ていると思う

詩の
短い文字の列がすきだ
しかし
すべての「詩がすき」ではない

私は
本当は一途なのか それとも
不勉強の成果で この年になっても
この詩集以外に 残るものは無く
僭越ながら 
自分が書くものの元のところに
この詩たちが作用ていると思う 

二十五年前
教室で詩を読みながら 光景を見ていた

そこから戻ってくると
未来に 私はどんな大人の女になるだろうか
という想像をしていたことを 思い出した

写るのは
本棚の横にあった 乾いたコンクリートの水道場

「こんな大人になり、詩のようなものを書いています。」と
云えることは 言えるが
ペンネームが「平木 なおり」というのは 
ボツにした





未詩・独白 あの頃の Copyright 蒼木りん 2004-09-04 02:32:39
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