蛇つかいたちの行進(1)
吉岡ペペロ
その男をはじめて見たのは、ゴールデンウイークが終わったばかりの頃だった。
百年に一度の不況のメカニズムは分からないけれど、この四十人ばかりの会社にも、それは充分実感できるのだった。
上司が煙草を吸いながら耕太ら若い連中に、売上がいきなりこんなに激減したことはなかった、と嬉しそうに語るのは言い訳ではないだろう。
通勤途中薫るツツジの赤や白がみずみずしくて、そいつと景気のギャップがおかしくて、耕太も笑みがこぼれることがある。
帰り道には夜のなかに緑が甘く溶けていて、きょう一日の情けないこころに、そういうのが気持ち良かった。
経営理念の唱和のあと、その男が副社長から紹介された。
男は会社が雇った経営コンサルタントだった。
そういえば、社長の親戚だとかいう老人が顧問として会社に来ていたことがある。
あの老人はどうなったのだろう。
たぶん社長の息子と言い争いをしてから姿を見せていない。
おはようございます、はじめまして、尾久経営研究所の尾久です、我社の売上不振は不況とは関係がないことを、だから、不況下でも売上が回復できることを、一年で実証いたします、どうぞよろしくお願いいたします、
尾久は耕太の会社を、我社、と言った。この会社の売上不振は不況とは関係ない、一年で売上を回復させる、と言ったのだ。
朝礼のあいだ耕太は尾久をちらちらと見つめた。
社長はつまらなさそうに下を向いていた。
副社長は緊張で胸をふくらませていた。
朝礼が終わると幹部社員たちが三階に上がった。
副社長と尾久がそのあとから上がっていった。
耕太には、それが、なにかの行進のように見えた。