アナゴ
MOJO
東京湾をフィールドとする釣師にとって、アナゴは馴染みの深い魚である。
キスやハゼを狙っていても、日が沈むころになるとアナゴが食ってくる。
防波堤や漁港の岡っぱりからの釣だから、寿司屋ででてくるようなサイズは滅多にお目にかかれないが、画学生用の鉛筆の親方のようなのはよくかかる。
持ち帰っても、細くて捌くのが面倒だから、塩もみしてぬめりを取り、はらわたを除いたら、片栗粉をまぶして揚げてしまう。
釣りたての鉛筆親方を低温の油で二度揚げすると、頭からぽりぽり齧れるのである。その風味はネタ自慢の天麩羅屋など目ではない。いい具合に揚がった鉛筆を齧りながらビールを飲む。
釣師の特権であり、至福のひと時である。
だが、たまに変に苦い一本がある。
あれ? と確かめてみると、取り除きそこなったはらわたに青イソメが混じっている。
青イソメとは環形動物であり、東京湾釣師にとって標準的な餌である。姿形は百足といい勝負にグロい。釣モードのときは平気で指でつまみ釣り針に刺すのだが、帰宅してビールを飲みながら口腔内にその存在を認めると「ぎょえ〜〜!」ということなる。
先日テレビで東南アジアの山の民が朽木の幹から掘り出した芋虫を食らうのを見た。
私は揚がった青イソメを思い出し、なんだか口の中に苦みがひろがるような気がしたのである。