ウサギになる魔法
噛子
僕は小さい頃、ウサギになりたくて、何故ならば、あの雪のように白く絨毯のようにフカフカな毛と、この世のものではないようなまあっかな眼が美しくて、見惚れて、そして憧れを抱いていたからだ
「ウサギになるにはどうしたらいいの?」
幼い僕は近所の(自称)魔法使いに尋ねた
「人参を食べて、曲がり角の青い扉の家に住んでいるミスターグリッドにウサギの血を貰い、毎日肌につけてゆきなさいな、この魔法書の通りにな」
そう魔法使いは云って、僕に魔法書を手渡した
僕は用心深いから、あの魔法使いが嘘吐きかもしれない、と思い、おんなの子を使って実験をすることにした
毎日人参を与え、時間になったら血を塗る儀式を行った
「さあ、ジェシー、お座り」
僕はそう云って、ミスターグリッドから貰った壷からウサギの血を人差し指に取り、彼女の身体に赤の点をつけてゆく、これが儀式
「ねえ、段々と君はウサギらしくなってきたね」
赤い点は日に日に増え、今ではもう点と点が繋がりかけていて、点で作られた模様が一部では池や雲のようにも見える
ウサギの血を塗ると、一日立つと被れ、二日目になるとウサギの柔らかい桃色の皮膚らしきものになる、三日目には完全に皮膚になり、四日目には白っぽい産毛が生えてくる
これを繰り返し、幼きおんなの子が少女になる頃、彼女は完璧なウサギとなった
僕はウサギになって、人の言葉を喋ることの出来なくなってしまった少女に云った
「待っていてね、今度は僕の番だよ」