シャボン玉
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真ッ暗な夜道を車で遣り過ごしていると、夜空に白い物体が。
何だあはれと車を止め、フロントガラス越しに目を凝らすと、スーツ姿の男が宙に浮いていた。
白く見えたのはワイシャツ、靴下。其れよりも白い男の顔は、表情を認めるには遠すぎた。
自分が見聞きした空飛ぶ人間のポーズとは違い、腕や足をだらしなく広げ、下の様子を眺めている。

ふと視線を戻すと、車の横に紺色の和服を着た男が立っていた。
この男も空飛ぶワイシャツに気付いたようで、呆然と空を眺めている。
そして大きく口を開けると、飽きれるほど大きなシャボン玉を吐き出した。
男の顔はみるみる青ざめ、よいよ白くなると、シャボン玉の後を追うように、ゆっくり宙に浮かび上がった。
それより早いシャボン玉は、ワイシャツの男の顔に当たると、割れて消えた。
するとワイシャツ男の顔は土気色になり。見えるのはワイシャツと靴下だけになった。
元々彼は色黒いのかもしれない。
それからワイシャツと靴下は、もがくように更に空へと上がり、やがて見えなくなった。
和服の男はどこへ行ったのか、紺は目を凝らしても闇と区別がつかず。また白い顔も見えなかった。
どうやら仰向けで宙に浮いたらしかった。




散文(批評随筆小説等) シャボン玉 Copyright id=5239 2009-04-25 05:25:24
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