「やさしい唄をきかせてください」
ベンジャミン

もうずいぶんとむかし

あなたはたしか
「砂漠のなかで金の粒をさがすようね」と言った
僕はそれはちょっと違うんじゃないかと言いそこねた

きれいな空をそのままうつしたような海の
ちょうどそんなような記憶だった

砂浜で貝殻を拾って歩く

あなたはたしか
「わたしの耳よりすこし大きな貝をさがしてね」と言った
僕はその希望にそうような貝殻をさがして歩いた

きれいな空をうつした海にあなたの影がにじむころ
ちょうどそんな貝殻を見つけられた

貝殻を耳にあててあなたは瞳を閉じる

あなたにどんな唄がきこえているのか
僕は何か大切なことをききそこねてしまった

そのままずいぶんと時が経って
あれが記憶だったのか夢だったのかも思い出せない

僕はそのまま
何か大切なことをききそこねて
いつも心の中に不安をひそませていたのだと思う

両手で耳をふさいでも
ざわめきのようなものしかきこえない

そんなとき

僕はすこしだけ悲しい詩を書きたくなる
僕はすこしだけ悲しい詩を読みたくなる

そんなとき
あのときあなたがきいていたのは

きっと
やさしい唄に違いないと思いたくなる
    


自由詩 「やさしい唄をきかせてください」 Copyright ベンジャミン 2009-04-21 00:43:48
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