「やさしい唄をきかせてください」
ベンジャミン
もうずいぶんとむかし
あなたはたしか
「砂漠のなかで金の粒をさがすようね」と言った
僕はそれはちょっと違うんじゃないかと言いそこねた
きれいな空をそのままうつしたような海の
ちょうどそんなような記憶だった
砂浜で貝殻を拾って歩く
あなたはたしか
「わたしの耳よりすこし大きな貝をさがしてね」と言った
僕はその希望にそうような貝殻をさがして歩いた
きれいな空をうつした海にあなたの影がにじむころ
ちょうどそんな貝殻を見つけられた
貝殻を耳にあててあなたは瞳を閉じる
あなたにどんな唄がきこえているのか
僕は何か大切なことをききそこねてしまった
そのままずいぶんと時が経って
あれが記憶だったのか夢だったのかも思い出せない
僕はそのまま
何か大切なことをききそこねて
いつも心の中に不安をひそませていたのだと思う
両手で耳をふさいでも
ざわめきのようなものしかきこえない
そんなとき
僕はすこしだけ悲しい詩を書きたくなる
僕はすこしだけ悲しい詩を読みたくなる
そんなとき
あのときあなたがきいていたのは
きっと
やさしい唄に違いないと思いたくなる