断頭
片野晃司

Challenger timeline(UPI)

T+74.130
Last radio signal from orbiter.**1

切断された管をたなびかせながら
放物線を描いて落下していく頭部の中で
酸素吸入器のスイッチが入れられていた

遠雷の最後の残響
水鳥がいっせいに飛び立ち
切断されたわたしの頭部が
青空の中を墜ちていく
その一瞬を分割し
わたしは
モザイク状に
停止している
もう一度
瞬きをすることができる

そして忘却

遠雷の
最後の残響

水鳥が飛び立ち
葦原の中で
わたしたちが見送ったもの
海原のただ中で
わたしたちが見送ったもの
草叢に埋没した無線室で
わたしたちが聞き取ろうとした
欠損した最後の信号
そして忘却

わたしたちは死につつある
そのわたしたちのすぐ隣で
呼びかけに応えることができる
いま死につつあるあなた
あるいはわたしの
首がまた分割されている
その一瞬をさらに分割し記録する
切断された頭部の
わたしたちはまだ生きている
わたしはもう一度
瞬きをすることができる
遠雷
枯葦がいっせいに靡き
潮が満ちてくる
そして忘却
幾度も繰り返された死を
わたしたちは覚えることができない
わたしたちのすぐ隣で
また切断されるあなた
その次にわたし
潮が満ちてくる
そして忘却
首切られたわたしたちの数
首切ったわたしたちの数
杭打たれ
焼き払われ
掘り返され
埋められ
忘却 そしてまた断頭
杭打たれ 焼き払われ
そしてまた断頭
いま
刃がわずかにうなじに触れる
その一瞬を分割し
わたしはまだ
瞬きをすることができる
その声を聞き
わたしはまだ
記録することができる

忘れられた
降りそそぐ六角柱のこと
未帰還の少年兵のこと
死者の数

縦型の船の白い頭部が
海面へ向かって静かに墜ちていく
その一瞬が
いつまでも続いている

呼びかけの声は
まだ聞こえる
ランギーユ!






詩誌「ガニメデ」2006年4月


*1 Challenger timeline(UPI)



自由詩 断頭 Copyright 片野晃司 2009-03-28 20:42:13
notebook Home 戻る  過去 未来