初恋の人からの手紙
白糸雅樹

ゆうと、ひさしぶり。元気にしていますか? 恋人はできましたか? まだあのアパートに住んでいるってことは結婚はしてないんだよね。
 
あたしがゆうとを手ひどく裏切って別れてから、もう十年がたちましたね。あの頃の猜疑心からだんだん絶望へと変わっていくゆうとの表情を思うと、手紙なんて迷惑かなと思ったのだけれど。
 
あ、手紙を書いたのは、とくに理由はないんです。あえていえば春だからなのかな。おどろいた?
 
おもえばあのころのゆうとはすごくがむしゃらで、あたしはずいぶんふりまわされたな、となつかしく思い出します。でもあたしもまだまだこどもで、自分流にしかふるまえないから、ずいぶん喧嘩しましたね。
 
あたしがこどもだったってことでいえば、ケチャップ味のオムライスを作ってあげられなかったことだけは、申し訳ないなと思っています。まだまだあたしもこどもだったから、自分流の味付けの料理しかできなくて、スパイスたっぷりのオムライスを出した時のあなたの怒りようを理解することができませんでした。今のあたしだったら、ゆうとが好きな味付けの料理もしたのにな。ごめんなさいね。裏切ったことに関しては謝れないけれど、オムライスのことだけは謝りたいと思います。

ゆうととつきあってよかったなぁって思うのは、ともかくなんにでも一生懸命なゆうとを見ていて、やればなんだってできるんだ、って思えるようになったことです。あと、すごくあたしを愛してくれたから、あたしも自分に自信が持てるようになったかも。ほんとうにありがとう。
 
そういえばゆうとにとってはあたしが初恋だったのかな? あたしが一人でどこか行こうとすると、すごく拗ねていましたよね。あのころのあたしたちを見ていた人で別れるって思っていた人はいないんじゃないかってくらい、いつもべったりと一緒にいたよね。「絶対浮気しないよね」って言われて、「うん」ってうなずいた時から、あたしの裏切りははじまっていたのかもしれません。でもこんなこといまさら言われても困るよね。
 
そうそう、エッチの時にぬがせたパンツの匂いをかぐ癖はやめた方がいいと思います。あれ、あたし笑っていたけれど、内心けっこうひいていたよ。
 
「もう女なんて信じられない」って言ってないで、はやく幸せになってくれるといいな、と思っています。ゆうとにひどい仕打ちをしたあたしだけれど、ほんとうに、ゆうとの幸せは祈っているんだよ。この手紙も読んだら破いて捨てて、恋人作って結婚してこどもの沢山いる家庭を築いてね。
 
追伸
だぶだぶだって喜んであたしが着ていたゆうとの上着とズボン、そろそろ捨てていいですか?

                                2009.3.20

http://letter.hanihoh.com/


自由詩 初恋の人からの手紙 Copyright 白糸雅樹 2009-03-20 02:12:19
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