とおい水
あおば

             090302




新しい親戚がやって来て
遠くの景色が良く見えるから
うちの新築のベランダに
登ってみませんかと
自慢をしたいのか
それとも人見知りをする人なのか
よく分からないけれど
親切にもお土産まで持ってきた
それならば、早速と
仕事にけりをつけて
明るいうちにと駆けつける
もちろん馬は居ないから
急ぎ足で駆けつける
息を切らしてたどり着くと
大きくなった姪が
乳飲み子を抱いて待っていた
これから家に戻るのだと
嬉しそうに語るので
しばらくは会えないなと思う
小さい頃は口数も少なくて
人が来ると
すぐに柱の陰に隠れるので
いるのか居ないのかよく分からないくらいだったのが
いまでは、にこやかに話しかけ
如才なく相づちを打ったりして
若奥様の役割も恙なく果たしている
遠くの親戚よりも
近くの他人とは
どこのどなたが言い出したのか
嫌みな方ねの素振りも示さず
にこにこしながら車に乗って
角を曲がり見えなくなった
新築のベランダには
年老いた両親が座っている
今日みたいによく晴れた日には
夕方の富士山が黒々として
それは力強く感じられて
元気が出るのだと
日の入り近い時刻だというのに
少し冷えすぎているのに
2人、黙って坐っている
雲が明るいから
明日も良い天気でしょうと
母が言うので
父は黙ったまま頷く
立ち上がって
ゆっくりと部屋に入る
ベランダには
誰も居なくなったのに
気配だけは漂っていて
しばらくはタバコを吸うわけにも行かない




自由詩 とおい水 Copyright あおば 2009-03-02 22:54:18
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