風になった友からの伝言 
服部 剛

今月の「ぽえとりー劇場」のオープニングでは、 
一年前に世を去った詩友の快晴君に 
生前Ben’sCafeで会った時にもらった 
ホチキスで束ねた詩集から二篇の詩を朗読しました。 

昨年の春、彼の自宅にお線香をあげにゆく電車の中で 
「こぼれ落ちるもの」と題した詩群を読みながら 
( 来年彼を追悼する時はこの詩を読もう・・・ ) 
と決めていたのが「風」という詩でした。 


  時々、風に向かって 
  この心をばら撒きたくなる 
  風に僕を知って欲しくて 
  誰かに僕を見つけて欲しくて 

  またも風が吹いてきた 
  それは 
  僕の頬をそっと撫で 
  どこかにまた隠れてしまう 


という二・三連から偽りの無い切実な心情と 
寂しさがそのまま伝わって来るようです。  


  いっそ自分が風になり 
  どこか遠くへ行ってみたい 
  そしたら君の背中を軽く 
  そっと押してあげられるから 

  あてどのない想い 
  あなたに届くのはいつ頃か 


この詩の最後で、自分が風になりたいという願いが 
さりげない優しさで語られています。 

僕はこの詩を読んでいると 
この詩の中で寂しがっている彼の声が
聞こえて来るようですが、 
風になった彼の想いは、 
(先日のBen’sCafeでの朗読と 
 このレポートの文で、 
 この世界の何処かにいる誰かに届いたよ・・・) 
と僕は今・キーボードを打ちながら 
彼に伝えています。 


続いて読んだ「地球の裏側」という詩は 
一連目で谷川俊太郎の「朝のリレー」を引用して始まりますが、 
三連目が彼らしいさりげない雰囲気ながらも 
遠くに住むひとに想いを馳せながらも
粋な言葉だなぁ・・・と思います。


  君の住んでいる街は
  今頃きっと真夜中で
  月とワインに酔っているだろう
  酔っ払うのが得意な君だから
  陽気になっても
  くれぐれもご自愛を 


そして四連の 


  あの頃あんなに話したことも
  今ではもう過去のこと
  思い出だけが砂のように積もり
  そして風に飛ばされる 


というところも彼らしい感傷と寂しさが 
密かにひりひりと伝わります。 

最後の二連は僕がこの詩を読んで 
特に印象に残る言葉で、 


  君はあの約束を覚えているかい
  私はその約束を果たす為
  必死になって
  この街に根を生やす

  どんな顔で君に会おうか
  最初に何を語ろうか
  この街にさえ居れば
  また君に会えるから
  そしたらまた遠くへ行こう 


五連目の(君との約束を果たす為、この街に根を生やす) 
というメッセージを、僕も朗読しながら 
力強く読んでいる自分がいました。 
それは、風になった彼と地上に残された僕の 
密かな約束のように感じるこの言葉を 
Ben’sに集まる詩の仲間と共有したかったからです。 

生前自分のことを人前ではあまり主張しなかった彼が 
今もさりげない風になって、大事な人の頭上を 
吹き渡っているのが観える気のする二篇の詩で 
今月の詩の夜は幕を開けました。 








散文(批評随筆小説等) 風になった友からの伝言  Copyright 服部 剛 2009-02-26 19:13:48
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