一ヶ月の色と形
エルメス
あれは、冬休み明けくらいのことだっただろうか。
「卒業まであと○日」というありがちな掲示物が、僕の教室にも掲示された。
最初は、あと60日くらいあって、まだまだこんなにあるのか……とぼんやりと思っていたのだけれど、
気付けばそれが半分を切っている。月日の流れって恐ろしい。年をとったわけではないけど。
冬休みが明けてから、時の流れは加速度を増している。僕にはそうとしか思えない。
理由は単純。もうすぐ、卒業してしまうから。もうすぐ、此処には来られなくなるから。
人は変化を嫌がる。慣性の法則は人間の精神にも当てはまる。だから、か。
何かが終わる時、それが幸福なものであればあるほど、名残惜しくなる。
たとえそれほど幸福でなくとも、もうすぐ終わるんだ、と思うと名残惜しく思えてくるから不思議。
……僕が今感じている名残惜しさは、果たしてどちらだろうか。何処から来たのだろうか。
どちらにしても、終わってほしくない。しかし、終わるところに意味がある。あぁ、複雑。
きっと、思春期を満喫している少年少女たちは、これの何倍もの複雑な思いを、
ずっとずっと味わっているのだろう。僕にはとてもついていけない。
想い出はいつも綺麗だ。今を想い出にできたら、毎日は綺麗になるだろうか。
いや、その時は、もう、既に……。
そんなことを考えながら、今日も僕は自転車を漕ぐ。
何百回目かの下校風景。空は、青い。