日本語ロック(黒夢のこと)
捨て彦

つい先日相対性理論のハイファイ新書が発売された。僕も買ったが相変わらず素晴らしい。曲も良いがやはり特筆すべきはベースの人(名前忘れた)が書く歌詞だ。友人のねいちゃんがタワレコに勤めているので売れ行きを聞いてみると、なんとハイファイ新書は巷でバカ売れしているらしい。そういえば僕がヌー茶屋町で買ったときも、相対性理論のブースがエスカレータを上ったすぐ目の前にあってビビったのだ。「あまりにもバカ売れで、在庫がないやん」ないやん、と明らかに間違った関西弁を彼女は実は確信犯的に使っているので、僕は多少イラっとしたがそれは内緒にして、なんでこのバンドがそんなに流行ってるんだろう?と思った。歌詞の語感にそれほどの求心力があるのが意外だったからだ。マニアックなものだと思っていた。それとも歌詞なんかそっちのけでボーカルやくしまるえつこのウィスパーボイスに皆ラブずっきゅんしたのだろうか。
僕は割と音楽が好きなので、何かにつけて音楽をよく聞くんだけれども、洋楽と邦楽の聞き方は多少違う。僕が昔から今でも神様だと思っているバンドはDNAとTELEVISIONと突然段ボールなんだけれども、基本的にはロックは曲で聞くのは変わりはない。表現としての曲自体に着目して聞くことが多い。しかし、邦楽を聞くときはそれとは別に歌詞も見る。なぜならそれはまぎれもなく僕が日本人だからだ。
日本語はひらがな、かたかな、漢字、それに英語を加えることで、他の外国語ではできない機微を表すことができる。それは本人の趣味趣向や方言などの影響をも受けて限りなく多種多彩だ。一見同じ日本語にも関わらず、ほとんど意味を読み取ることのできないものや、聞いたこともない単語、フレーズを目にすることもしばしばである。全然関係のない話だがよく国語のなんたら協会のえらい人が、最近の若い人の言葉使いはおかしい、あれはおかしいから直さないといけない、みたいなことを言っているのをよく聞く。たしかに仰るとおりである。だけれども、僕はそのへんはあまり重要だとは思っていない。なぜなら、言葉というものは体感の後についてくるものだからだ。体感したものの表出として、言語が発露するのである。渋谷の女の子が発した言葉が全国的に広がったならば、それはとても現代的な出来事であるし、そこに旧仮名づかいが出てくる場はないのである。社会学的、民俗学的な出来事と言語は直結していると思う。
前振りはこれくらいにして、本題の黒夢である。黒夢。1991年に結成、1994年にデビューして以来、目まぐるしくバンドイメージを変化させていったビジュアルロックバンドである。(もう解散するのかな?)一般的に有名になったのは、ピストルやらなんやらでタモステに出だした頃や、パンク色の強くなった頃のようなので、あまりビジュアルバンドとしてのイメージは知られていないようだが、インディーズ時代はこてこての、それももっと最底辺を感じさせるデスロック、メタルバンドだった。そして、僕はこのインディーズ時代の黒夢に、もっと言うとこの頃のボーカルの清春が書く歌詞に、他にはない日本語ロックのひらめきを見たのだ。当時僕はこんな日本語を今まで見たことがなかった。以下歌詞引用











芽生える理想と
発覚の果ては
限り或る余白
堕ちて幸せを



「UNDER…」











ほどきたえる微 音こぼした 架空を
よみがえらすべく 散らばった花 あわさり始めた



「MISERY」












縁どられた 二人早すぎる 紙上の影 逃がされず
飼い殺しを 知り尽くしたのも 愛しさゆえ 結ぶだろう



「棘」











好みの日なのに 孤独波打ち 吐き出る不快感
取りのぞく行為 視点を飛ばし 地面で物を書く



「masochist organ」











母体に近づく残像 私を妨げていた
何を 謡うもまやかし 正体不明グロテスク

毒、飲み干す そして からくり
貴方、違う姿



「MISSING GLORY」











なんという中二病まるだしの歌詞。しかし僕は学生時、病的にハマった。たしかに中二病丸出しの歌詞ではあるが、僕は今でもこの頃の清春の歌詞には、他のバンドにはない強烈な日本語独特の、日本語だからこそ沸き立つ陰惨な、閉鎖的な、病的な雰囲気が凝縮されていると思っている。それは唯一無二のものであり、三島由紀夫や谷崎潤一郎的、寺山修司的なデカダンさに近いものかもしれない。そして数ある日本語ロック、町田町蔵やらイースタンユースやら歌詞としてのロックを語る上で、初期の黒夢は外してはならないものだと思っている。僕の心の一枚の中には必ず黒夢が入るのである。
と、大層なことを色々言っておきながら、その実インターネットを徘徊してもあまり黒夢の歌詞について触れている記事を見た事がない。あれ、僕の感性はおかしいのかしら?とも思ったけれども、それでは僕の気が収まらない、もしかしたら共感はされないかもしれないが、これはこれで一つの暇つぶしの読み物として消費されればいいと思ったので、せっかくなのでこうしてフォーラムに投稿させていただきました。ご清聴ありがとうございます。






散文(批評随筆小説等) 日本語ロック(黒夢のこと) Copyright 捨て彦 2009-01-26 21:46:06
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