とものさんの詩の魅力について。 
服部 剛

 今年の幕開けとなる1月18日(日)の笑いと涙の
Ben'sCafe・ぽえとりー劇場で朗読したとものさんの
「crescent」という詩は、テキストとしても朗読とし
てもとものさんの詩の世界の魅力を充分に伝えていた。

 この詩は夕刻に三日月をみつめながら坂を下る情景
で始まり、月と呼応する女の感覚が優れた描写で伝わ
る。(決して地球に裏側を見せない月の苦しみ)とい
う言葉はとものさん自身に月が宿っているような優れ
た視点だと思う。 
 その後の連で、とものさん自身が地上で惑いながら
くるくる周る衛星?のようなイメージと「月と地球」
を「男と女」に喩えたような描写も面白く、天文学で
は解明できない人生の日々の謎と葛藤がありながらも 


  本当は何も知らなかった。
  勉強をしよう。知らなくてはならない。
  世の中の、様々な事象を。
  わたしたちは、知ることから逃げてはならない。 


というこの連の最後の一行から地上を彷徨い歩きなが
らも潔い決意が伝わる。次の連ではそれでも尚、理屈
を越えて押し流されてゆく愛の行方・・・という印象
である。 


  ほかのひとにあたえられた
  おやすみのキスを思いだし
  君の毛を1本つまんで引っ張る
  ぴん と 伸ばす 緊張 
  最後通牒 布告
  力を抜いて 緩ませるか
  力をこめて 抜き取るか
  無理をすれば
  その場所が こわれてゆくことを
  ほんとうは知っている
  やめてといわれて素直に従う 合意
  見開いた目で
  よく見極めている たましいの救援方法
  大晦日の夜
  元旦の朝
  さわがしい新春にはさまれたニュース
  年中無休で襲う人 逃げる人
  ケーブルテレビのアニメは
  宇宙の戦争で難民になった子どもや
  軍人にさせられた少年の戦いを描いていた
  断続的に続く血なまぐさい画面を目の端に置き 


 男の髪を一本摘んで引っ張る、互いの緊張感を秘め
た関係を表す巧い描写で、男の気づかないところで昔
の彼のキスをふいに思い出すという、女性の微細な心
理を描いている。そして、愛を交わす夜とテレビの中
の異国の戦争という情景も無意識に何かを重ねている
ような効果的な設定の情景描写である。 


  わたしたちは寒い部屋を暖房であたため
  やさしくぶつけあうようなセックスをする
  暴力をも愛しいと感じてしまうような床の上
  西の方では 住処を壊された人たちが
  手探りを繰り返しながら爆発音をきいている
  煙に凌辱され息もできないでいる 


 ここは歌でいうとある意味サビのような、読者が思
わず引き込まれるところであり、この連のような思い
切った描写を曝け出す所に詩の世界の美保純と言える
だけのものが確かにあり、最近の作風に言えることだ
が、性愛を含めた日常の、性愛を単なる性愛に終わら
せない詩的深みが日々経過する時間に溶け合っている
のが最近のとものさんの詩世界に醗酵している魅力だ
と思う。

 そして詩の最後でもとものさん独自の優れた着地・
・・という以下の終連。 


  裏も表もないコイントス
  月夜の初詣
  お賽銭 五円玉
  たった五円と君が笑っても
  「ご縁がありますように、だよ」と
  五円玉をひとつだけ
  お賽銭箱に落とし

  (二礼)
  (二拍)



  (一礼)

  炎に 飛行機のライトに
  明るくされたその夜にも 
  三日月はきっと鎮座していた
  新年


  おめでとう 


 このラストを朗読しながらとものさんは実際に五円
玉を ちゃりん とBen'sの黒い小さな舞台の上から床
に落とし、ぱん ぱん と両手を合わせ、礼をする、テ
キストもさることながらパフォーマンスも優れた詩的
空間を創り出す詩人の才を感じさせる5分間の印象的
な朗読の時間でした。 


※ この優れた詩のテキストはとものさんのブログ
  1月18日のページで読めます。 
  http://tomonon.exblog.jp/10161480/ 





散文(批評随筆小説等) とものさんの詩の魅力について。  Copyright 服部 剛 2009-01-19 19:18:52
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